生き方を変える、映画のチカラ
『もったいないキッチン』から未来を考える

生き方を変える、映画のチカラ 『もったいないキッチン』から未来を考える
Text by Kyoko Kita
Photograph by UNITED PEOPLE [TOP]

「今の世代のための答えを出すことは簡単かもしれない。大切なのは、未来の世代のために、これからの地球をどう維持していくか考えること」。映画配給会社「ユナイテッドピープル」代表の関根健次さんは、そのヒントを国内外のドキュメンタリー映画に見出し、配給、上映活動を行ってきました。「映画を観ることで、新しい視点に触れ、考え方が、行動が、生き方の幅が広がる」。それぞれに異なるバックグラウンドやアイデンティティを持った人たちが集い、映画を囲み、共に未来を考える場を作り続けています。

学生たちをアジア最貧国へ向かわせた映画

「映画には生き方を変える力がある」。

国内外の社会問題を取り上げたドキュメンタリー映画を配給する「ユナイテッドピープル」代表の関根健次さんは言います。「買う物が変わった、寄付を始めた、起業した。一本の映画を観たことで生き方が変わった人にたくさん出会いました。僕自身もその一人です」。

2009年以降、これまでに上映した映画は63作品。昨年は約1500回の上映会が開催されました。貧困、教育、環境、ジェンダー、紛争……映画のテーマは多岐に渡ります。

「ユナイテッドピープル」代表 関根健次さん。「多様性は幸せに繋がる」と多様なドキュメンタリー映画を生き方や社会のあり方のヒントとして提示する。
「ユナイテッドピープル」代表 関根健次さん。「多様性は幸せに繋がる」と多様なドキュメンタリー映画を生き方や社会のあり方のヒントとして提示する。

大学の卒業記念に出かけた世界半周旅行で紛争地域の現実を目の当たりにした関根さんは、世界の課題解決を目指し2002年に起業。募金サイト「イーココロ!」やネット署名サイト「署名TV」を運営しながらも、課題そのものを伝えるメディアが必要ではないかと考え始めました。

そんな折、視察に訪れた当時アジア最貧国のバングラディッシュで、ストリートチルドレンの支援団体と出会います。ストリートチルドレンは、同国ではもはや当たり前の存在で、誰も問題視していませんでした。しかしそれではいけない、子供たちが置かれた過酷な状況を世の中に発信することで社会を変えていきたいと、団体は独自に映画を製作していました。そんな彼らの思いに共感した関根さんは日本での上映を約束します。

とはいえ映画の上映に関しては全くの素人。力になってくれたのは、当時2万人ほどいた「イーココロ!」の会員でした。サイト上で事の経緯を説明し相談すると、映画関係者を紹介してくれたり、試写会というアイデアを提案してくれたり、様々な知恵と人脈を授けてくれました。
上映会ではただ映画を観るだけでなく、集まった人たちと考える場にしたいと、トークイベントも企画しました。ゲストに迎えたのは、バングラディッシュやネパールなどアジアの途上国を上質なものづくりで支援する社会起業家の山口絵理子さん(「マザーハウス」代表)や、映画を制作したNGOエクマットラ顧問の渡辺大樹さん。

こうして手探りで準備を進めた上映会に、関根さんは確かな手応えを感じたと言います。

「『アリ地獄のような街』という絶望的な現実を描いた作品ですが、その内容や山口さん、渡辺さんの話に感化された学生が、上映会後に何人もバングラディッシュへと旅立ったのです。旅行会社がボランティアツアーを組んだところ、希望者が殺到してパンクするほど。帰国した学生たちを呼んで活動報告会を行えば、彼らの話に刺激された別の学生がまた動き出す。

映画自体が問題を直接解決することはできなくても、それを観た人が心を動かされ、行動に移せば、いつか世界を変えることができる。そう確信しました」。
以来、関根さんは映画の配給に事業を集中していきます。

関根さんが映画の力を実感した初上映作品。ストリートチルドレンの過酷な現実を描く。
関根さんが映画の力を実感した初上映作品。ストリートチルドレンの過酷な現実を描く。

人と人を繋ぎ、社会を動かす

2作目となる『幸せの経済学』を準備期間中に東日本大震災が発生。日本中が混沌としている中、それでも3.11後の生き方のヒントになるのではないかと、5月末に113会場で上映会を開催、5千人が足を運びました。

また原発事故を受け、3作目は自然エネルギーをテーマに作品を選定しました。10カ国の再生可能エネルギーの導入事例を取材した『第4の革命』は「希望に溢れていて、観終わった後、すぐにお届けしたいという気持ちで興奮が抑えられなかったのを覚えています」。
「今の日本に必要な映画だ」、胸に滾る思いを制作会社に伝えると、監督自ら何度も来日し、上映会に参加してくれたといいます。上映会では募金活動も行い、太陽光発電による避難誘導灯を気仙沼に寄贈することもできました。

3.11後、「今の日本に必要な映画だ」という想いで、再生可能エネルギーをテーマにした作品を上映。
3.11後、「今の日本に必要な映画だ」という想いで、再生可能エネルギーをテーマにした作品を上映。

関根さんが提示する作品は、現状への違和感や危機感、何かしなくてはいけないという使命感など様々な感情を観る人に想起させます。それは一緒に観た人と共有することで大きなエネルギーとなり、アクションに繋がっていきました。
映画には、一人を動かす力だけでなく、人と人を繋ぎ、社会をも動かしていく力がある。「UNITED PEOPLE」という社名に込めた思いは、上映した作品の数だけ、小さな実を結んできたと言えるのかもしれません。

世界中にひらめきを与える日本独自の価値観

そんな関根さんが初めて自らプロデュースした作品が8月に公開されます。食品ロスをテーマにした、その名も『もったいないキッチン』。映画監督であり〝食材救出人〟の異名を持つダーヴィド・グロス氏が、食品ロスの解決策を探して日本全国を巡るロードムービーです。

軽トラックにミニキッチンをのせ、4週間かけて福島から鹿児島まで1600キロを走破。
軽トラックにミニキッチンをのせ、4週間かけて福島から鹿児島まで1600キロを走破。©UNITED PEOPLE

実はダーヴィドさんの食材救出の旅は、今回が初めてではありません。15年に公開された『0円キッチン』で、彼は廃油を燃料にして走るキッチンカーでヨーロッパ5カ国を巡り、ゴミ箱や家庭の冷蔵庫などから廃棄される運命にあった食べ物を救出し、おいしい料理に蘇らせてきました。

世界的に深刻な食品ロスの問題に、楽しさやおいしさというポジティブな解決策を示した前作は、数々のドキュメンタリー映画賞を受賞しています。ユナイテッドピープルによる日本での劇場公開に合わせてダーヴィドさんが来日したことが、『もったいないキッチン』誕生のきっかけとなりました。

「全国の上映会をダーヴィドと巡る中で、彼は『もったいない』という日本語に出会い感銘を受けました。その言葉の根底には、森羅万象に魂や命が宿ると考え敬い大切にしてきた日本人ならではの精神文化がある。彼が長年続けてきた食材救出活動の一つの答えであり、『世界中にひらめきを与えることができる考え方』だと感じたようです」。

「もったいない」の実践者を訪ねて

しかしそんな日本でも多くの食べ物が廃棄されている現実があります。年間643万トン。国民全員が毎日おにぎり1個分を捨てている計算です。またその数字は、世界中で飢餓に苦しむ8億人に向けて国連が行う食料援助量の1.6倍に相当します。

世界に誇る食文化を有し、「もったいない」という言葉を持つ日本で、なぜこれほどの食べ物が捨てられてしまうのか。廃棄の現場を訪ね、背景を探ろう。そして日本のどこかに「もったいない」という価値観を体現する素晴らしい取り組みやアイデアがあると信じて旅に出よう。
舞台を日本に移しての映画製作は、関根さんとダーヴィドさんにとって、必然とも言える流れでした。

撮影現場でのワンシーン
撮影現場でのワンシーン

ダーヴィドさんは通訳で旅のパートナーのニキと共に、福島から鹿児島まで1600キロ、4週間にわたる旅をして、様々な「もったいない」の実践者にフォーカスしていきます。
視覚による思い込みから食べ手を解放するため目隠しで精進料理を提供するお寺、「野山は食材の宝庫」と言う野草料理名人のおばあちゃん。原発の風評被害に苦しんだ経験からネギ坊主の出たネギ活用法を編み出した福島の有機農家とフレンチシェフ。大手コンビニエンスストアや、食品リサイクル工場、クラシック音楽が流れる鰹節工場等々。

都内のお寺で精進料理を食す。視覚を奪われることで食感や味覚、嗅覚により意識が集まる。
都内のお寺で精進料理を食す。視覚を奪われることで食感や味覚、嗅覚により意識が集まる。©UNITED PEOPLE
「野山は食材の宝庫。必要な時に必要な分だけ採りに行く」と言う野草料理名人のおばあちゃん。
「野山は食材の宝庫。必要な時に必要な分だけ採りに行く」と言う野草料理名人のおばあちゃん。©UNITED PEOPLE

食品リサイクル工場には商品にならない食品や賞味期限切れの惣菜など大量の食べ物が運ばれてくる。
食品リサイクル工場には商品にならない食品や賞味期限切れの惣菜など大量の食べ物が運ばれてくる。©UNITED PEOPLE

真摯な姿勢で食に向き合う彼らの言葉に、ダーヴィドさんは誠実に耳を傾けます。そして時に歌や音楽を交えながら、周辺の人たちも巻き込んで料理を作り、和気あいあいと食卓を囲む。

前作同様、作品全体が新しいアイデアや料理への期待感に満ち、皆で食事を楽しむ笑顔が印象に残ります。心を通わせた者同士が共に料理を作り食べることは、人間がずっと昔から大切にしてきた幸福な営みなのだと、改めて気づかせてくれます。だからこそ、その楽しさを抜きに食の問題を解決することはできないのではないかと。

もったいないキッチン
©UNITED PEOPLE
出演者やスタッフなどが揃って「もったいない」ごはん。
出演者やスタッフなどが揃って「もったいない」ごはん。 ©Macky Kawana

食べ物は、命である。

そして作品を通じ、「もったいない」の実践者たちが我々に考えさせるのは、食べるという行為そのものの意味です。
「食べ物は命であるということを思い知らされる旅でした。福島の農家さんが、ネギを捨てることを『申し訳ない』と言っていた。食べ物を捨てることは、命を捨てることであり、殺すことでもある。
『もったいない』は『ありがたい』であり、命を『いただきます』なのです。
難しい経済システムやグローバリゼーションについて語らなくても、その精神を持った人たちが行動を変えていけば、持続可能な社会に繋がっていくはずです」。

▼映画『もったいないキッチン』
https://www.mottainai-kitchen.net/

8月、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー!

 

監督・脚本:ダーヴィド・グロス
出演:ダーヴィド・グロス、塚本ニキ、井出留美 他
プロデューサー:関根健次
制作・配給:ユナイテッドピープル
提供:クックパッド株式会社
配給協力・宣伝:クレストインターナショナル
2020年/日本/日本語・英語・ドイツ語/16:9/95分

 

▼前作『0円キッチン』とあわせて鑑賞を!
ヨーロッパ5カ国をキッチンカーで巡り、捨てられる運命の食材を美味しい料理に変身させた前作『0円キッチン』。数々のドキュメンタリー映画賞に輝いた本作品は、現在オンラインでレンタル視聴可能です!
https://www.cinemo.info/movie_list.html

 

◎ユナイテッドピープル株式会社
https://unitedpeople.jp/

 

◎cinemo ユナイテッドピープル配給映画上映会開催・オンライン視聴情報サイト
https://www.cinemo.info/

転載元:The Cuisine Press|Web料理通信、生き方を変える、映画のチカラ UNITED PEOPLE代表 関根健次氏プロデュース新作映画『もったいないキッチン』公開に寄せて

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