豊田啓介が語る、アフターコロナのオルタナティブ・ランドスケープ

アフターコロナのオルタナティブ・ランドスケープ
Text by Koki Hakoda
Videography by Yosuke Sano
Direct by Koji Nishiyama

働き方も、遊び方も、生き方も――。
コロナ禍で、私たちの「スタンダード」は変わりつつあります。リモートワークが急増し、オフィスに人が集まる価値は薄れました。親睦を深めるリアルの場での会食は、リスクをはらむ行為になりました。人の変化が入れ物である“都市のあり様”に影響を与えるのは当然のこと。

都市のランドスケープが変容していくなか、コンピューテーショナル・デザインを用いた建築・都市設計の第一人者で、2025大阪関西万博誘致会場計画アドバイザーでもある豊田啓介さんは、フィジカルとデジタルが重なる共有基盤=「コモングラウンド」の重要性が加速すると解きます。アフターコロナのいま、オルタナティブ・ランドスケープはどう変わっていくのか? 豊田さんに、その“解”を尋ねました。

コロナ禍で進む“人や集団の量子化”

渋谷駅前のスクランブル交差点。ほうぼうから集まった大勢が、縦横無尽に闊歩する様が「東京らしい」と世界から支持される観光資源でした。ところが、コロナ禍でその価値が一変。「人がいない」「集わない」ことがポジティブとなった結果、渋谷のスクランブル交差点に人がいないことに、人々は胸をなでおろすようになったのです。

コロナ禍で行動が制限された結果、私たちは不便を感じると同時に、価値観を大きく揺さぶられたわけです。「こうした価値観の変容の先には、“人や集団の量子化”がある」と、豊田啓介さんは言います。

ここでの量子化とは、量子力学で言う「波動性と粒子性の共存」。つまり、人が同時に複数の場所や集団に「存在」できること、そして、それぞれの存在は薄く重なり合うようなものになっていくことだと豊田さんは説きます。

「仕事ひとつとっても、会議は対面ではなくZoomで、打ち合わせはSlackで、と多くはデジタル上のバーチャルなやりとりに代替されました。その結果、否応なしに場所や時間に縛られずに仕事できることを多くの人が実感しました。ライブイベントも軒並み中止になりましたが、アーティストのトラヴィス・スコットはネットゲームの『フォートナイト』上に巨大な自分のアバターを登場させ、同じくアバターとなった観客を2800万人も集めた。ようするに、コロナ禍を契機にたしかにモノに閉じた領域では不便になった一方で、進化したデジタルテクノロジーがそれを補える領域が十二分にある。そんなマインドセットを多くの人が体験したわけです」

たしかに、好むも好まざるもなくリモートワークに慣らされた私たちは、身体を対峙させずとも、オンライン上で十二分にミーティングができることを実感しました。学生たちや教師の一部からは「オンライン授業のほうが進度が速い」「わかりやすい」」という声も聞こえてきます。そして「オフィスや学校に縛られず、時間と場所を自由に使えるメリットを感じた」とも――。

「以前から兆候はありましたが、ひとつの場所や組織、時間に縛られない離散的な世界がコロナ禍とテクノロジーの浸透で、一気にいろんな場面で現実になり始めた。もうこれは不可逆的な“社会の新たな設定”ですよ」

では、この変化のなかで都市はどのように再設定されるべきなのか。豊田さんはこう言い切ります。 「フィジカルな実態を持つ身体でもアバターのようなデジタルの存在でも、量子化した個人それぞれがお互いを認識可能で、シームレスにインタラクションできるプラットフォームとしての都市。そのためには、いわゆるネット上のバーチャル空間とも異なる、実空間の多様なモノとそのデジタル記述やメタデータが正確に、かつリアルタイムに重なり合った、『コモングラウンド』と呼んでいる領域を新しく構築することが重要になります」

「コモングラウンド」がもたらす、無限の可能性

「コモングラウンド」について少し説明しましょう。

私たちのアイデンティティの“入れ物”として、われわれは通常生身の身体を想定します。一方でこれからの日常には、バーチャルなアバターなどいろいろなかたちを持つ「デジタルエージェント」も複数混在するようになっていきます。

また、生身の身体かそうでないか、という対立項以外にも、自律的に動くロボットやモビリティといった物理的実態を持つ、移動するデジタルエージェントも存在するので、建物や都市などそれらが動き回る舞台となる「環境」との対立軸も重要になります。人の視点や動作、いろいろな価値が部分的にデジタル技術を通して「移動」できるとき、その憑依する先はデジタルエージェントでもいいし、フィジカルな、もしくはデジタルな環境でもいいわけです。自分の身体か他人の身体かはたまた環境か。そういうこれまで疑問に思ったことのなかった境界が、新しい技術でどんどんあいまいになっていきます。

私の存在はある瞬間はパリの画面上のアバターになっているかもしれないし、次の瞬間アルゼンチンで複数のモビリティを制御しているかもしれない。私の所在と存在価値が同時多発的で離散的になっていく環境が整いつつある。これが先に出た“社会の量子化”ということになります。

しかし、そうした多様なエージェントが共存する世界を日常に実装しようとすると、ロボットがドアを認識できなかったり、ちょっとした段差にモビリティがひっかかってしまったり、壁の向こうにいるはずのアバターが手前に描画されてしまったりと、まだまだ現実の物理世界とデジタル世界のインタラクションは思う以上にできていません。バーチャルに閉じているうちはいいのですが、日常の実空間とさまざまなデジタルレイヤーをシームレスに接続しようとすると、意外なくらいに相互の認識世界が異なっていて、接続していないことに気づきます。

「そうしたフィジカルとデジタルを寸分なくリアルタイムでつなぐプラットフォームが『コモングラウンド』です。これを社会に実装するには? 概念としては壮大で、とてもたくさんの過程が必要なのですが、まずは物理空間やその中のオブジェクトをとにかくデジタル記述して、その形状や属性が誰でもいつでもオープンに読める状況をつくることからしか始まらないと考えています」

デジタルエージェントは何らかのかたちでモノの形状や属性がデジタル記述されない限り、「部屋の中にどんなかたちのテーブルが置かれているか」「道路にどれくらいの大きさのゴミが落ちているか」すら把握できません。そのために都市のあらゆるものをセンシング、デジタルエージェントがそれをつかみとれるようにできる限りあらかじめ用意しておいてあげるのが最初のステップというわけです。

「ただ、こうしたデジタルプラットフォームの整備により拡張される領域は多いとはいえ、同時に本質的に拡張や代替が難しい感覚や属性もそれ以上にたくさんありますし、直近の技術がそのすべての組み合わせを扱えるとも到底思えません。生物がモノを感じ取る情報量、匂いや熱、あるいは無意識に感じ取る雰囲気や空気みたいなものを含めると、もう50次元、100次元にも及ぶほどの分厚さで、人は日常的に情報を処理しているわけです。そうした無意識の蓄積による『歴史』とか『物語』のような属性は、なかなか技術的な代替は難しい。

コモングラウンドを目指すことで、むしろフィジカルなものの価値を再認識することになるでしょう。と同時に、その高次元の価値がシンプルなデジタルデータとして記録され、コモングラウンド上で誰でもアクセスできるようにできれば、私たちは極めて高度な都市生活を営めるようになるはず」

イメージとしては「デジタル/フィジカル」軸と「エージェント/環境」軸によって作られる四象限を、個々がバラバラにして自由に組み合わせられるように街をデザインすることです。そのために必要になるのがコモングラウンド。

そこでは、働く場所や学ぶかたち、住む環境を自由度高く選べます。例えば仕事はこれまで通りオフィスに通勤する人もいれば、ロボットでバーチャルに通勤する人も、デジタルのアバターでプロジェクトに参画する人もいる。学校は週の3日間は都市で学ぶけれど、残り2日間は森で学び、1日は田舎で学ぶ人もいる、といった具合です。

コモングラウンドに用意されたチャネルを選べるようになれば、学校だって別にひとつの組織、ひとつの場所に閉じている必要はなくなっていきます。所属や移動の制限を開放するから、雇用の幅もぐっと広がりそうです。まさにいまコロナ禍のなかで、否応なく押し付けられた世界がポジティブな選択になっていく状況ですよね。

「だから最近もてはやされているスマートシティも、都市だけではなくその対極としての郊外や田舎、リゾートなどもすべてカバーするプラットフォームがあってはじめて価値が生まれる。いま、いろんなところでスマートシティ的な概念が乱立し始めていますが、フィジカルとデジタルをシームレスにつなぐ『コモングラウンド』のようなインターフェースは、意外なくらい見逃されているんです」

半年間にわたって広大な都市空間をテクノロジーの実証実験場とする2025年の大阪万博は、そんな「コモングラウンド」を実装させる最初の場になりえます。そしてフィジカル×デジタルが手をつなぎ合わせたその先に、何が生まれるのか。それを目の当たりにする最初の機会に。ひとつ明らかなのは、それが私たちに、いまよりもずっと幅広な“自由”をくれる大きな機会になりそうだということです。

今回はアマナのオウンドメディア「VISUAL SHIFT」との連動取材です。
新型コロナウイルスの感染拡大によって離散化が進む社会で、企業が示すべき真の“ニューノーマル”とは?
>> VISUAL SHIFT、建築家・豊田啓介さんがコロナ禍で語る、「遊び」が日本の未来に与える価値

PROFILE

豊田啓介

建築家/noizパートナー/gluonパートナー
豊田啓介

建築家/noizパートナー/gluonパートナー
豊田啓介

2002~2006年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所 noiz を蔡佳萱、酒井康介と共同主宰。2017年、「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領域横断型プラットフォーム gluon を金田充弘と共同で設立。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティング等の活動を、建築やインテリア、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。2020年より東京大学生産技術研究所客員教授。
https://noizarchitects.com/

MEDIA

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アートやデザイン、食、テクノロジー、自然科学、ライフスタイル、マーケティングなど、独自の視点でさまざまな事象を捉え、情報発信いるアマナグループ傘下の9つの専門メディア。これらを統合し、2020年4月に新たに生まれたのが、次世代型メディアプラットフォーム「amanatoh(アマナト)」です。「ヒト・コト・ミライが交差する」をタグラインに、「キュレーション・特集・イベント」の3つの軸から情報を発信し、デジタルとリアルのアウトプットへと繋げて、一層複雑化する現代社会の課題に向き合います。