すべてのビジネスパーソンが今“ビジョン思考”を身につけるべき理由

すべてのビジネスパーソンが今“ビジョン思考”を身につけるべき理由
Text by Koki Hakoda
Photograph by Honami Kawai

ベストセラー『直感と論理をつなぐ思考法』で“ビジョン思考”の重要性を説いた佐宗邦威さん。ビジネスに「なぜ今、ビジョン思考が必要なのか」、アマナの佐藤勇太がインタビュー。共創のアイデアについても語り合いました。

“妄想”の価値に気づいた瞬間

マーケットの流行や過去の先例ではなく、根拠なき妄想=ビジョンからビジネスや生き方を考える。それが企業や個人が停滞感から抜け出すカギとなる——。佐宗邦威さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法』には、価値あるアイデアを生むための思考の新技法が明示されています。

なぜその思考法に行き着いたのか、ビジネスパーソンがその思考法を実践することで仕事にどのようなイノベーションが生まれるのか。アドバンスドマーケティング事業を担当している佐藤勇太が聞きました。

佐宗邦威さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法』(ダイヤモンド社)
佐宗邦威さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法』(ダイヤモンド社)

佐藤勇太(以下、佐藤):佐宗さんは、もともとは左脳型人間だったそうですね。

佐宗邦威さん(以下、佐宗。敬称略):完全にそうでした。新卒で入ったプロクター・アンド・ギャンブル(以下、P&G)のマーケティング部では綿密なデータとロジックをもとに日々、仕事をしていましたからね。

佐藤:右脳型の「ビジョン思考」にシフトされたきっかけは何でしょうか?

佐宗:きっかけとなったのは、メンタルの不調でした。いわゆる、鬱になったことです。当時のP&Gマーケティング部はすばらしい戦略思考で多くの成果を残していました。市場動向や販売実績に関するデータをどこよりも持っていたから、データを元にPDCAを回せば、現状の課題とそのための策が確実に見出せました。

佐藤:安定して成果を出せる環境にいたのに、メンタルが不調になったのですか?

佐宗:問題の一つはデータに基づく意思決定がクセになり、新しいチャレンジをするようなモチベーションが薄れていくことでした。さらに仕事をすればするほど「ゲームチェンジャー」と呼ばれるようなずば抜けたマーケターは、数字やデータといった論理だけでは動いていないことが見えてきました。自分のような左脳的な仕事ぶりだけでは限界があると実感したんです。

佐宗邦威さん
戦略デザインファームBIOTOPE CEO/Chief Strategic Designerの佐宗邦威さん。

佐藤:自分の限界が見え、絶望につながったと。

佐宗:そうですね。一方で「売上は毎年110%増やせ」「給料は奪い合い」というドライな競争の中にいましたからね。そうしている間に、いつの間にか心が疲弊して、途中で目標を達成し続けることにやりがいを感じられない状況になってしまい、引きこもりになりました。当時は、真っ暗な闇の中に落とし込まれたような気がしていました。

それで、これまでのビジネスのフィールドから一度降りたんです。そして、その闇から逃れるためにいわゆる、生産性とはつながらないような生活に浸かりました。アートに触れたり、デッサンをしたり、物語を書いたり……というさまざまな体験をやってみる時期を過ごしました。

佐藤:本では「ビジョンのアトリエ」と表現していたプロセスですね。左脳型の反動か、いわゆる右脳を使う作業に没頭された。その経験が、右脳型の価値を見出すことになったのですか?

佐宗:その中で、カラーセラピーのようなものに惹かれたり、右脳で描くというアートのワークショッププログラムに参加した時に、暗闇の中に、ひと筋の光を見た気がしました。ずっと頭で考えていた自分が、言葉を使わずにイメージを知覚することで、全然違う思考をできるようになったのです。

何より、これまでマーケットやクライアントなどの外発的なニーズに動かされてきた仕事とは、あきらかに違う達成感がありました。ひらたくいえば幸せを感じたのです。

佐藤:なるほど。そうした転換を経て、イリノイ工科大学に留学、「デザイン思考」のメソッドを学ばれていますよね。

佐宗:はい。ただ「デザイン思考」も、やはり既存の課題解決型の、他人のために使うビジネススキームでしかないとも言えるんです。学べば学ぶほど、デザイン思考をツールとして使う、もっとビジョナリーな思考を生むことこそが大切だと気づきました。「根拠はないが俺はこれがしたい!」と言い張り、邁進するような妄想ですね。

日本の多くの企業が、そして日本全体が停滞している今、本当のイノベーションを実現するためのやり方になるのではと。

佐藤:裏を返せば、そこにニーズがある。

佐宗:だから、そんなビジョン思考の重要性を説いた『直感と論理をつなぐ思考法』が支持されたのではないでしょうか。山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)や、内田和成さんの『右脳思考』(東洋経済新報社)など、似たような考え方の書籍が同時多発的にベストセラーになり、経営層に売れている理由でもあると感じています。

佐藤:まさにそれです。僕も日々、クライアントワークにあたっている中で「左脳の限界」を肌身で感じているんですよ。

直感と論理をつなぐ思考法

アイデアを殺さないための「ビジョン会議」

佐宗:「左脳の限界」を感じるのはどんな場面ですか?

佐藤:経営者の方はたいてい孤独で、厳しい経営の決断をしている。それこそ妄想と現実の間を行き来して、悩んでいます。このとき、「現実」の方のパートナーには、昔から戦略コンサルタントがいます。ところが、彼らの仕事は過去のデータを参考に最適化した「解」を導くことです。既存のビジネスが停滞するなかで、大きなイノベーションが求められているのに、過去の延長線上にはそれはない。

佐宗:過去のデータを元にして未来を予測する「フォアキャスティング」ではなく、遠い未来をジャンプして妄想して、そこを起点に今どうすればいいか見出す「バックキャスティング」な発想が必要になっている。ビジョン思考の根本です。

佐藤:戦略コンサルとはまた別の、経営者が未来を妄想するような、ビジョン側のパートナーが求められているわけですね。

佐宗:おもしろいですね。新しいものが生まれ出るときの最初の起点って、身体感覚なんですね。「なんかいいな」とロジックでは説明できないけれど心地よい、あるいは居心地悪さ。そこに創造やイノベーションの芽があるものなんです。

こうした身体感覚を想起させるために「知覚」を刺激することが必須で、最も知覚にアプローチしやすい表現が何かわかりますか?

佐藤:ビジュアル表現でしょうか?

佐宗:そう。「ビジュアル」と「空間」なんです。デザイナーがインスピレーションを得るためにいろいろな写真やイラストを集めたり、アーティストが刺激的な空間やリラックスできる場所に自らの身を置くことで、何か想像を喚起する。

アマナの佐藤勇太。
アマナの佐藤勇太

佐藤:なるほど。アマナはオフィス空間をとても大切にしていて、ホスピタリティを感じさせるデザインにすると同時に、クリエイティビティを刺激するアート作品をそこかしこに配しています。こうした「考えるための知覚」を刺激する空間に身を委ねてもらうことで、やはり議論が活発化するんですね。それはクライアントにも私たちにもメリットしかない。

あと「ビジョン会議」をトライアルで提案しているんです。

佐宗:ビジョン会議?

佐藤:ビジュアルは脳科学的にみても言語の数百倍の情報量を瞬時に働きかける力があるとされます。そこで、会議体の片隅に我々がいて、会議の中で出てきたアイデアを、ストックしている写真やCGや動画を組み合わせて「こんな感じですか?」とリアルタイムで提示する。すると、ミーティング中に見えてきた妄想やビジョンがクリアになります。

佐宗:興味深いなあ。妄想やビジョンは、どうしても抽象的になる。ただ抽象を抽象のままにしていると共感や共有につなげづらい。抽象的な議論の「解像度」を上げる作業がどこかで必要になりますからね。

佐藤:おもしろいのが、会議が豊かに「広がる」んですよ。正解論を求めるよりも、可能性論を探りはじめる。「こうなったらおもしろいよね」と可能性を探るとまたポジティブに進むんです。ビジュアルの力かなと感じます。

佐宗:考えてみたら、SNSも文字中心のものからInstagramのように、ビジュアルありきの直感的に響くやりとりのほうが支持されつつある。個人や世の中がもうビジュアルにシフトしているのに、会社や組織が遅れているとも言えるのかも。

いずれにしても、そのビジョン会議と空間デザインをかけあわせてパッケージにしたら「考えるための知覚」を提供する、オンリーワンな事業が生まれそうですね。

“ビジョン思考”を手にするには?

佐藤:ところで、こうしたビジョン思考は、経営層やクリエイターだけが必要な思考法になるのでしょうか?

佐宗:私は、すべての組織・人にどこかのタイミングで必要になる思考法だと思っています。たとえばこれからは1人で複数の仕事を持つのが当たり前の世界になろうとしている。2社にまたがって働いたり、会社に勤めながら自ら起業する、なんてことが大いにあり得ます。

そうなったとき、これまでの会社の評価や、当たり前だった数値目標がなくなる世界が広がります。他人評価がはずれ、誰しも自分のビジョンを設計しなければ、何をするにも迷い、悩む瞬間が訪れる。そのときにブレないビジョンを設定する必要が出てくるわけです。

佐宗邦威さん

佐藤:では、そうした“ビジョン思考”を手にするにはまず何からすればいいのでしょう。

佐宗:スペース=余白を作ることです。本にも書きましたが、たとえばまっさらなノートを買ってきて、日常の中で毎日5分でも10分でも時間をあけます。この時間と空間の余白を作ったうえで、クライアントや会社、マーケットではなく、本当に本当の自分と向き合って「何がしたいか」「何が好きか」と妄想してみること。それをノートにとにかく書いてみる。

佐藤:「自分を起点にした思考」にシフトするエクササイズですね。

佐宗:その通りです。他人起点で仕事や思考をしてばかりいた人は、最初は大いに戸惑うはず。「何を書けばいいかわからない」「妄想が浮かばない」と。そもそも驚くほど余白の少ない生活、仕事をしている方が多いですからね。けれど、最初は何でもいいんです。おすすめは「妄想クエスチョン」を用意して自問自答することです。

佐藤:「妄想クエスチョン」とは?

佐宗:「小さい頃の夢は?」「100億円あったら何に投資する?」といった漠然とした「もしもこうなら」という妄想の問いかけです。これを続けるうち、内側にある本当にやりたかったことに気づき、自分のためのオリジナルな「やりたいこと」に気づき始める。自分のビジョンを抱く道筋になるはずです。まあ、最初はあまり堅く考えずに遊び半分でやることですよ。そもそも子供の頃って、こういう妄想遊びを当たり前のようにやっていましたよね。

佐藤:なるほど。時間にも心にも「遊び」が必要なのかもしれないですね。とても大きなヒントをいただいた気がします。本日はありがとうございました。

掲載元:VISUAL SHIFT、すべてのビジネスパーソンが今“ビジョン思考”を身につけるべき理由

PROFILE

佐宗邦威
Photograph by Kawai Honami

戦略デザインファームBIOTOPE CEO/Chief Strategic Designer
佐宗邦威

戦略デザインファームBIOTOPE CEO/Chief Strategic Designer
佐宗邦威

東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&G、ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。大学院大学至善館准教授。

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VISUAL SHIFTは、企業の課題を解決するヒントをクリエイティブ視点で紹介するアマナのオウンドメディア。ビジネスに役立つ基礎知識や事例、各分野のキーパーソンへのインタビューをお届けします。