SNSによって奪われたものを自らの手で探し出す、ニューヨークで活躍するミレニアル世代のフォトグラファー

SNSによって奪われたものを自らの手で探し出す、ニューヨークで活躍するミレニアル世代のフォトグラファー
Text by Miwa Susuda

グローバリズムの限界に社会が揺らぐ中、デジタルネイティブたちは、ソーシャルネットワークを駆使し、イメージという共通言語を使いながら独自の世界を広げている。国境や文化の壁も、写真家、出版人、キュレーターなどといった肩書の枠組みも越えて自由に活動を繰り広げる写真シーンの次世代を牽引するキーパーソンたちに、それぞれのヴィジョンや彼らから放射線状に延びるネットワーク上にいる、刺激的な仲間について話を訊いた。

ニュージャージー出身で、現在はニューヨークを拠点に活動する24歳の写真家ケイティ・ボルッソ(1993年生まれ)は、写真集専門書店Dashwood BooksでZINEのセレクトを担当し、友人のキー・ショーケットと共に出版レーベルElementary Pressを運営するなど多岐にわたる活動を展開している。彼女が写真に興味を持ったきっかけは、「自分自身を何かに投影したいと思い、16歳のときからセルフポートレイトを撮り、それに添える文章を書き始めたこと」。アイデンティティを探求するすべとして始めた写真と執筆を、いまでも続けている。

「2010年に『Daily』というブログを立ち上げ、そこに日々感じたことを継続して書いています。じっくりと時間をかけて推敲しながら書く文章と、思いつくままに綴ったものとは文章として全く異なる性質を持つと思います。『Daily』では即興的に感じたことを書き、そこから生み出される何かを読者と共有しながら発展させることが目的です。ブログに写真は掲載しませんが、自らの意識を表現するセルフポートレイトを撮っているので、そのような文章を書く行為は相関関係にあります。文章なしに私の写真は成立せず、またその逆もしかりなのです

ケイティ・ボルッソのZINE『UNDER THE DOG STAR』の表紙。
『Under The Dog Star』(2016)
ケイティ・ボルッソのZINE『UNDER THE DOG STAR』の中面。
『Under The Dog Star』(2016)
ケイティ・ボルッソのZINE『UNTITLED LOVER PICTURES』の表紙。
『Untitled Love Pictures』(2017)
 『Untitled Love Pictures』(2017)
『Untitled Love Pictures』(2017)

ボルッソが自費出版したZINE『Under The Dog Star』『Untitled Love Pictures』は どちらも、21歳の頃のボーイフレンドとの関係性を描いた、親密なストーリー。どちらにも若いカップルの初々しい姿が写っているが、前者は実際に付き合っているときのもので、後者は別れたあと、ボルッソが心の整理をするために作ったもの。6月には、 Elementary Pressから写真集『Shady Acres』を刊行する予定。ボルッソの家族が運営する、ペンシルベニア州の川沿いにあるキャンプ場を3年間にわたり撮影した写真が綴られる。

オンラインで文章を発信し、自身の出版レーベルから写真集を刊行する。自分のスタイルに合わせてメディアを行き来するボルッソ。「写真はコンピュータの中ではなく、本の中にあるべきだという考えを持っています。物としての重さを感じながら、ゆっくりと自分のペースで味わうことができるから。Elementrary Pressでは、文章を入れて写真集の趣旨を明らかにすること、そして編集作業を特に大事にしています」と、本を作ることへのこだわりを語る。

また、2018年からDashwood Booksに勤め、同世代の写真家が作るZINEや自費出版の写真集を広くリサーチし、店頭やさまざまなフェアで彼らと直接コミュニケーションする機会も増えたという。「ニューヨークには、数多くのエキサイティングな展覧会やブックフェアなどがあります。それは若い世代の写真家にとって作品を発表する場になるだけでなく、コミュニティを築く機会となるので環境としてとても恵まれていると感じます。同世代の多くは積極的に出版に取り組んでいて、写真集シーンはいまもアクティブです。ただ残念なのは、まるで情報の少ないファッション誌のように、画像をただ並べただけの思慮に乏しい編集のものが多いのも事実です」と、最近の傾向を話してくれた。

「SNS、特にInstagramの影響だと思うのですが、そこでは企業の広告、ファッション写真、個人のスナップショットなどさまざまな画像が一律に扱われ、均一化された視覚体験を私たちに強制的に押しつけます。Instagramは拡散力があり、プロモーションツールとしては有益ですが、写真のオリジナルの意味を消し去ってしまったり、見る人が能動的に考えたり、感じさせる体験を奪ってしまっているように感じます。若い写真家のみならず、誰にでもいえることですが、 Instagramのそのような影響を認識しておくことは大切だと思います」。ボルッソは、新しいコミュニケーションツールと冷静に距離感を保ちながら活動を続ける。ここでおすすめしてくれた雑誌やイベントからも、深い対話や議論を求めていることが伝わってくる。

インデペンデント出版に特化したブックフェア「The Cultural Traffic」に出展した際のボルッソ。
「The Cultural Traffic」
マンハッタンのロウワーイーストサイドで開催されたインデペンデント出版に特化したブックフェア。2016年前にロンドンでスタートし、これまでにデトロイト、マイアミ、ロサンゼルスでも行われた。ボルッソがセレクトしたDashwood Booksのブースでは、アイルランドのパンクシーンについてのZINEやエフェメラをまとめた『Punk Troubles: Northern Ireland』のほか、ジャン・デンの『Si Si』、ロレーナ・レーアの『Texas Blue』など、同店で人気のあるストーリー性の高い写真集が並んだ。

Recommendations

「撮る女性」と「撮られる女性」の信頼関係が生み出すイメージ・Eva O’Leary

エヴァ・オリーリー
Spitting Image, 2017

ボルッソが特に注目する同世代の写真家は、同じくニューヨークに住むエヴァ・オリーリー。イエール国際モード&写真フェスティバルでグランプリを受賞した、期待の新星である。「オリーリーの作品には、女性の容姿と性に対する誠実さがあります。被写体である女性モデルが、自身の女性性を最大限に表現できるよう話し合い、お互いの理解を深めることを撮影の過程において重要視するのです。女性同士が親密な対話を通して生み出した作品は、決して些末なものではなく、まさに奇跡の結晶だと思います」。掲載作品の「Spitting Image」は、マジックミラーを使って撮影した1 0代の少女たちのポートレイトを通して、完璧な美への憧れや、アイデンティティのあり方を問うシリーズ。

   

夕食を囲んで繰り広げられる、アットホームなパブリックイベント・The Marble Hill Camera & Supper Club

パトリック・ヘルマーが主宰するThe Marble Hill Camera & Supper Clubに集まった写真家やライター、エディターの集合写真。
昨年の冬に開催された討論会には、50名以上の写真家やライター、エディターが集結した。
昨年の冬に開催された討論会には、50名以上の写真家やライター、エディターが集結した。

1981年生まれの写真家でキュレーター、パトリック・ヘルマーが主宰するThe Marble Hill Camera & Supper Clubは、2016年に参加メンバーの個人宅でスタートしたカジュアルな討論会。その後も月1回のペースで開催され、いまでは参加メンバーは100人を超えるという。写真家、ライター、アーティストが集まり、それぞれが持ち寄った食事を囲んで、カジュアルな雰囲気ながらも真剣なプレゼンテーションに対して熱い議論が交わされる。実際に参加したボルッソは、「すべての情報や写真がデジタル化された現代では、相手の表情を見ながら生の声を聴く機会が著しく減少しました。このイベントに参加したことで、自分自身と作品について深く考えるいい機会が持てた」という。フィジカルな意見交換の場を求めるニューヨークの写真家にとっては、欠かせない存在のようだ。

   

3つの写真雑誌がタックを組んだ!写真について語り合うオンラインプラットフォーム・The Reservoir

『The Heavy Collective』
『The Heavy Collective』
『The Ones WeLove』
『The Ones WeLove』
『Mossless』
『Mossless』
ウェブマガジン「The Reservoir」のサイト画面。
3誌がタッグを組み立ち上げたウェブマガジン「The Reservoir」
ウェブマガジン「The Reservoir」に掲載された、ボルッソの作品。赤いネオンサインが川に反射しているダルトンの叙情的な一枚。
Michael J. Dalton II, Trenton Makes the World Takes, 2014
Caiti Borusso, The Reservoir 「last haircut」, 2017
Caiti Borusso, The Reservoir 「last haircut」, 2017

第2号では、ボルッソとマイケル・ダルトンが、ニュージャージーを撮った作品をそれぞれ紹介し、それについての二人の対話が掲載されている。掲載作品は、ニューヨークに引っ越す前、母親に髪を切ってもらったボルッソのセルフポートレイト(6枚目)と、赤いネオンサインが川に反射しているダルトンの叙情的な一枚(5枚目)。

『Mossless』『The Heavy Collective』『The Ones WeLove』が手を取り合い、2018年の1月にスタートしたウェブマガジン「The Reservoir」。さまざまな写真家、ライター、評論家が、写真について議論を交わすプラットフォームを目指す。「Instagramで膨大な数のイメージを見ても何も考えない受け身な態度とは対極にあると思います。また、その内容は写真論だけにとどまらず、写真を軸に、社会・政治における時事問題についても話し合われているので、多くの人が楽しめる内容だと思う」と、ボルッソ。お互いの活動をインターネットやSNSを通して知っていた3誌の編集者たちが、2017年の秋にニューヨークで開かれたIndependent Art Book Fairで実際に出会い、そこでの会話の中から「The Reservoir」のアイデアが生まれたという。彼らが共通で抱いていた危機感は、若い世代が過度にInstagramに傾倒し、写真に特化したブログからの読者離れが進んでいること。議論の場を提供し、読者に能動的に考えることを促す新たなプラットフォームは、その打開策になりそうだ。

掲載元:IMA ONLINE、連載『写真シーンの新世代SNSによって奪われたものを自らの手で探し出す、ニューヨークで活躍するミレニアル世代のフォトグラファー IMA 2018 Summer Vol.24より転載)

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