自然に育まれた「グランドセイコースタジオ 雫石」に見るグランドセイコーの未来図

自然に育まれた「グランドセイコースタジオ 雫石」に見るグランドセイコーの未来図
「グランドセイコースタジオ 雫石」のクリーンルーム。防塵や空気清浄の確保など高い機能レベルが求められるクリーンルームにおいて、木造建築のものはあまり例がないが、照明の方法や床からの空調なども含めて現代の最高技術を駆使して実現した。
Text by Mitsuru Shibata
Photographs by Takashi Sekiguchi

ものづくりの本質を追求し、その先に理想を求める

岩手山を正面に、開放感あるガラス張りの木造建築が真っ直ぐに続く。L字のコーナーに位置するラウンジを除いて高さは抑えられ、青い空が広がる。その空に向かって伸びていくような屋根が印象的だ。「グランドセイコースタジオ 雫石」を訪れた誰もがそこを時計の工房とは思わないだろう。温もりの伝わってくる雰囲気は、まさにスタジオと呼ぶにふさわしい。エントランスに入ると、壁面には大和張りが施されている。それは廊下へと続き、周囲の自然との一体感を損なうことなく、静謐な空間へと誘われるようだ。隈研吾は設計の意図についてこう語る。

岩手山に対して屋根を大きく跳ね上げた、建築家・隈研吾設計の新スタジオ。
岩手山に対して屋根を大きく跳ね上げた、建築家・隈研吾設計の新スタジオ。

「まず建物をどのように周囲と関係づけるか。そのために正面の屋根を跳ね上げ、空や岩手山と建物をつなげるジェスチャーを表しました。大事にしたのは、天然素材の質感に加え、木の持っているリズムです。周囲の林から建物の柱、壁の大和張りへと続くリズム。それらがすべて合わさり、それこそ時を刻むようなリズムを建物の中に生み出したいと考えました」(隈)。

木のリズムが奏でる存在感に、和紙のようなテクスチャーを持った白壁が調和し、美しいコントラストを演出している。「それもリズムの一部です。見る角度や光によって異なる白の紋様が表れ、わずかな質感を与えることで空間全体にリズムが響き渡る。木造建築でも木の構造体をここまで見せられるケースはあまりありません。しかしその強さを強調するのではなく、美しく調和させるため、松の集成材にわずかに薄い白い顔料を入れました。この白の入れ方はとても気を使ったところです。そして雫石の景観に馴染むこの色調で、柱やカーペットなどすべてを統一しているわけです」(隈)。

ラウンジのある2階へ続く階段の踊り場から、工房のクリーンルームの全景が見渡せる。
ラウンジのある2階へ続く階段の踊り場から、工房のクリーンルームの全景が見渡せる。

特に、隈にとっても新たなチャレンジとなったのが、時計の組み立てや調整を行なうメインのクリーンルームだ。精緻な時計の製造には、防塵や空気清浄を確保したクリーンルームは欠かせないが、木造建築ではこれまであまり例がない。

「クリーンルームは要求される機能レベルがとても高く、木造では難しいのです。そこで照明方法や床からの空調なども含めて現代の最高技術を駆使する一方、シンプルさを追求しました。じつはこのシンプルというのが一番難しい。それも高い技術力があったからこそ実現でき、機能性を備えつつ、木という伝統的な素材のよさも引き立ちました。僕が目指すこともグランドセイコーが目指していることも、実はすごく近いと感じていて、最先端のテクノロジーを駆使しつつも、そのベースには自然がある。その2つがうまい形でつなげられたらといつも考えています。日本人はそのようにして文化や技術を築いてきたのではないでしょうか。そうした思いをこの建物に込めました」(隈)。

訪れたビジターは、廊下越しに広がる豊かな自然とともに、このクリーンルームで誕生するグランドセイコーを目の当たりにできる。「グランドセイコーのものづくりは、実際の現場で見ていただくとその本質が分かると思います。そこには日本人が長い年月をかけて育んできた匠の精神が息づいています。セイコーの匠というのは、非常に日本的なもの。日本の匠を育てたのが日本の自然であり、このスタジオでは美しい自然に育まれた匠の技が発揮され、時計が生まれていくというプロセスを感じていただけることでしょう」(隈)。

「グランドセイコースタジオ 雫石」のある地は、以前から豊かな森林だった。盛岡セイコー工業では生物多様性の保全に積極的であり、サステナビリティ活動にも精力的である。
「グランドセイコースタジオ 雫石」のある地は、以前から豊かな森林だった。盛岡セイコー工業では生物多様性の保全に積極的であり、サステナビリティ活動にも精力的である。

盛岡セイコー工業の林 義明社長は、精密機械である時計と、自然との共生の重要性を説く。「私たち盛岡セイコーの50年の歴史は、雫石の自然とともにありました。とくに近年では生物多様性の活用に力を入れ、社内緑地も緩やかに手入れをし、できるだけ自然の形を残す活動を進めています。また生産活動でもゼロエミッションに向け、省エネモニター機器の設置をはじめ、CO2排出削減に取り組んでいます。時計は精度が求められ、緻密な部品から成り立つものであり、こうした環境が欠かせません。それはものづくりの原点であり、製品を作るためには身近にある自然ときちんと共生していくことが大切なのです」(林)。

雫石の自然を守りながら、生産活動を活性化させることで地域貢献につながると語る、盛岡セイコー工業の林 義明社長。
雫石の自然を守りながら、生産活動を活性化させることで地域貢献につながると語る、盛岡セイコー工業の林 義明社長。
Photograph by Kenichi Shimura

時計は精密機械であっても、そのものづくりを支え、血を通わせるのは美しい自然であり、四季を通して人間に与えるインスピレーションということなのだろう。「時計というのは、それだけ人間に身近で心情を映し出す存在だからでしょうね。特に『THE NATURE OF TIME』の理念を掲げるグランドセイコーが、自然の中でどれだけその本質を追求できるか。ものづくりを通してぜひ実現していきたいと思っています」(林)。

盛岡セイコー工業の加藤幸則副社長。このスタジオで働く各人が仕事への意義や自信を持つことがグランドセイコーを成長させると語る。
盛岡セイコー工業の加藤幸則副社長。このスタジオで働く各人が仕事への意義や自信を持つことがグランドセイコーを成長させると語る。
Photograph by Kenichi Shimura

本格稼働に向けて準備を進める「グランドセイコースタジオ 雫石」だが、人に目を向けると、ここで働くことは、ブランドを代表してものづくりをすることであり、働く人を育てることにつながる。盛岡セイコー工業の加藤幸則副社長は語る。

「ものを作るという意味では、これまでと同じ、この拠点でやってきたことに大きな変わりはありません。ですが、そこで多くの人に私たちの仕事をより深く理解していただくということがスタジオ設立の大きな意義であり、そうした自覚を持って仕事をしていくことが個々のモチベーション向上にもつながることでしょう。ここで自分がものを作っていくというプライドと自信が大きな支えになるのです」(加藤)。

加藤の言葉を借りれば、「ブランドは人が支えるもの」であるということだ。「ここで働くということに誇りを持ち、そしてそれを次の世代に継承していく。スタジオの一人ひとりがこうした意識を持つことが、私たち自身の成長と、ブランドとしての評価につながっていくと思います」(加藤)。(敬称略)

>> Premium Japan、GRAND SEIKOの聖地・雫石(前編)へ

◆グランドセイコースタジオ 雫石
岩手県岩手郡雫石町板橋61番地1

関連リンク
グランドセイコーホームページ
グランドセイコースタジオ雫石特設ホームページ

転載元:Premium Japan、GRAND SEIKOの聖地・雫石(後編) 自然に育まれた「グランドセイコースタジオ 雫石」に見るグランドセイコーの未来図

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