「社会の常識」を改めて考える。コロナ時代の今こそ読みたい、あの名作絵本

「社会の常識」を改めて考える。コロナ時代の今こそ読みたい、あの名作絵本
Interview & Text by Sumire Fujiwara
Photographs by Hiyori Ikai

職業柄、本をすすめるプロでもある「森岡書店」店主の森岡督行さん。そんな森岡さんが、いま読んでもらいたい一冊とは? 40年以上前に出版され、中世の頃を描いた作品ながら「今の時代のムードにもマッチする」という、ある絵本を挙げてくれた。


絵本は果たして、子どもだけのものだろうか? 大人も、絵本から人生における大切な「気づき」や「学び」を得ることは大いにあるはずだ。
森岡さんが最近手に取り心動かされたと言う一冊は、絵本作家・安野光雅さんが1979年に発表した『天動説の絵本』。
2020年12月24日に逝去された安野さんを偲び、安野作品について改めて調べていた時に導かれるように出会ったのが、この絵本だった。

『天動説の絵本』 作/安野光雅 福音館書店 1,650円(税込)
『天動説の絵本』 作/安野光雅 福音館書店 1,650円(税込)

コロナ時代の中で、いま“出会うべき”一冊

「この絵本は、安野さんがお亡くなりになられてから初めて知った作品です。私は安野さんと直接交流があったわけではないのですが、神保町の古本屋で働いていた頃、街角で安野さんが本を探している姿を何度かお見かけしたことがありました。私が働くお店に足を運んでくださったこともあり、訃報を聞いた時は、その時の安野さんの姿がすぐに脳裏に浮かびました。そんな風に想いを馳せる中で、偶然にもこの絵本に出会ったんです」

天動説が信じられていた頃の世界を描いた本作は、安野さんの独特なタッチのイラストと言葉で、当時の人々の暮らしや考えが語られる新感覚の科学絵本だ。難解な宇宙論にフォーカスを当てるのではなく、これまで信じられてきた常識が覆される激動の時代の中で、人々がどう不安と戦いながら受け入れていったのか、時代背景を描くことで小さな子どもでも興味を持ちやすい内容になっている。

『天動説の絵本』 

「まず安野さんらしい、繊細な線で描かれたイラストと、ページのグラフィックの構成力が素晴らしいなと一瞬で魅了されました。でも徐々に読み進めるうちに、この本で描かれている時代が、いまのコロナ時代と重なったんです。

『天動説の絵本』で描かれる時代も今のコロナ時代も、新しい価値観が生まれ、社会が大きく変わろうとする“時代の過渡期”。そんな風に人類の歴史では、社会が変化する時が必ず訪れるんだな、というのをこの絵本を通して改めて感じました。

大昔の時代を描いた作品ですが、不思議なくらい今の社会のムードにマッチしていて。それがこの本に惹かれた理由です。周りの親たち・子どもたちにもすすめたいですが、何より今、自分自身が“出会うべき一冊”だったと思いますね」

森岡督行さん

絵本を通して改めて感じた、「考える力」の大切さ

本作では、今私たちが新型コロナウイルスという未知の病に直面しているように、ペスト菌が流行し人々が恐怖に苦しむ様子も描かれている。

「当時は、ペスト菌の流行が悪魔の仕業だと本気で信じられていたというのが興味深いですね。もしかしたら、今の私たちがコロナに対して抱いている考えや常識も、近い将来変わるのかもしれない。でも、社会が変わって欲しいと思う気持ちもあるんです。さまざまな“当たり前”が一変している今、私たちは一人ひとりが社会に向き合い、考えないといけない局面にあるように思います。もちろん誰かの意見に耳を傾けることも大切ですが、それ以上に自分自身がどう思うのかという、“考える力”が大切ではないかと。この絵本を通して、そんなことを改め感じました」

『天動説の絵本』 見開き

子どもたちに伝えたい大切なことは、すべて絵本に詰まっている

『天動説の絵本』のように歴史や科学に向き合う絵本から、空想の世界を描いた物語の絵本まで、絵本のジャンルは多種多様だ。しかしどの絵本にも、子どもたちが学ぶべき人生の教訓が描かれている。

「子どもたちが人生で大切にすべきことって、絵本にすべて詰まっている気がします。例えば、優しさ、明るさ、好奇心、真面目さ、素直さとか。その概念を親が言葉で説明するのはなかなか難しいことですが、絵本作家が絵本の中にそのメッセージを、言葉やイラストで落とし込んでくれている。教育現場でもそういったことは『道徳』として習いますが、メインで学ぶのはやはり国語・算数・理科・社会じゃないですか。だからこそ、幼少期に絵本をたくさん読むことは大切なように思います」

森岡督行さん

さらにデジタル時代を生きる子どもたちが、絵本という「紙媒体」に積極的に触れる経験も重要ではないかと森岡さんはいう。

「個人的な意見ですが、紙媒体である絵本は、親と一緒に読んだ時間や、ビジュアルのインパクト、その物語の世界観など、デジタルメディアに比べると記憶の残り方が違う気がするんです。最近は、『デジタルと紙では脳で認識する部位が違う』とも言われていますよね。PCやスマホのように画面自体が発光する『透過光』と、紙のように太陽など外部の光が当たってページが反射する『反射光』の違いから、脳の認識の仕方が異なるという理論のようですが。個人的にはそれが影響して、紙とデジタルで記憶の残り方に差が出るのでは?と感じていて。

私自身の経験上も、紙媒体で得た情報は記憶に深く残っているなと思うことが多いんです。絵本をたくさん読むことが、自分の体験として記憶に残り、それが子どもたちの考える力になっていく。そう感じるので、ぜひ子どもたちに絵本を読む機会をたくさん持ってもらいたいですね」

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掲載元:Fasu(旧:MilK JAPON WEB)、「社会の常識」を改めて考える。コロナ時代の今こそ読みたい、あの名作絵本【絵本と本と私の物語 #03】

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