和洋の伝統を練り込んだ
東京香堂のかぐわしい物語のはじまり

和洋の伝統を練り込んだ 東京香堂のかぐわしい物語のはじまり
Photographs by Natsuko Okada (Studio Mug)

東京香堂は、ペレス千夏子とペレス ジョフレというカップルで編まれたユニット。お香を取り入れた生活を提案する、インテリア・アロマ・インセンス・ブランドである。

LOVE CARROT(ラブ キャロット)というインセンスに火をつける。ポッと火がついた瞬間立ち上る煙、そして香り。千夏子が最初に創ったインセンスだ。フランス・グラースでフレグランスを学んでいたとき出合った、キャロットシードの香りに感激して着想したという。

次々と香りが現れ、鼻腔をくすぐる。脳裏に浮かんだのはこんな風景である。ニンジンの甘さと、太陽をよく浴びた豊かな土、ニンジンの葉の青さ……。暖かな日差しの中、広大なポタジエから掘り出された、取れたてのニンジンたち。それは南仏の、ニンジン畑の収穫風景だ。その風景が醸す素朴な幸福感へと、インセンスの香りがいざなったのである。『失われた時を求めて』の紅茶に浸したマドレーヌの香りの挿話のような作用が、東京香堂のインセンスにはあるように思う。

千夏子が最初に創り上げたインセンス、LOVE CARROT(ラブ キャロット)。写真はギフトセット6,500円
千夏子が最初に創り上げたインセンス、LOVE CARROT(ラブ キャロット)。写真はギフトセット6,500円

東京香堂のインセンスは、まさにフレグランスのように複数の香りが立ち上るように設計されている。白檀(びゃくだん)、沈香(じんこう)など、伝統的なインセンス、いわゆるお線香は漢薬などをブレンドしたものが多い。フランス産の天然香油を使用し、フレグランスの思想や発想でインセンスを創るという、東京香堂のユニークさが理解できるだろうか。この設計の斬新さ、パッケージの美しさなどから注目され、絵画展やブランドのコラボレーションで、見知った人も多いだろう。

家業を継ぐ決意
それも自分らしいやり方で

千夏子の生家は、祖父の代から続く寺院専門のお線香販売店だ。千夏子の代で三代目となる。しかし家業を継ぐという意識はまったくなく、多摩美術大学大学院卒業後、テキスタイル会社に勤務していた。転機となったのは2011年のこと。東日本大震災後、震災の影響から、寺院からの注文が激減したときだった。幼い頃から祖父や父の背中を見てきたこともあって、このままでいいのかという思いと、テキスタイルデザインという目に見える世界から、香りという目に見えない世界をどう表現して行けばいいのか、自分の中で葛藤があった。継ぐからには香りの世界を好きになること、そして頭の中に漠然と描いていた一から創作したいという思いだけをたずさえてフレグランスの本場、フランス・グラースへと旅立った。

グラースの可愛らしい街並み。
グラースの可愛らしい街並み。
バラの花の甘やかさと茎や葉の鮮烈な青い香り。南仏の太陽がグラースの畑に降り注ぐ。
バラの花の甘やかさと茎や葉の鮮烈な青い香り。南仏の太陽がグラースの畑に降り注ぐ。

Grasse Institute of perfumery(グラース・インスティチュート・オブ・パフューマリー)へ入学し、フレグランスについて基礎から学ぶ日々が始まる。千夏子の入ったクラスは1年間みっちりと基礎から学び、フレグランスのプロを目指すコース。たった12名しか入学を許可されないという狭き門のクラスだ。毎日いやというほど香りに向き合い、鼻を酷使するため、鼻に痛みを感じるほど。しかしこのグラースでの学びは自分には向いていた、と千夏子はいう。

「一流の先生方の間近で学べることもさることながら、グラースという土地で、どのようにフレグランスの原料となる花々や植物が育てられているかを、肌で知ることができた、かけがえのない環境でした。何より驚いたのは、はじめて香料畑を訪れた際、植物を育てている人も、メゾン系Perfumer(パフューマー)も、そこに上下関係はないということでした。自然のリズムを大切にしながら原料となる植物を育み、ひとつの香りが世に出るまで時には数年がかりということもある。みんながひとつになって香りを創り上あげていく過程を知ることができたのは、私にとっては収穫でした」。

香りという文化に触れ
パートナーと出会った地・グラース

しかし、フレグランスの世界の奥深さを知るほど、香りの文化の違い、お香との違いを知ることにもなった。「香りに現れる風景、そのむこうに彼らの文化という背景やアイデンティティまで見えてくるのです。フランス人の創る香水にはかなわないと思いました」。

そんなとき、勇気づけてくれた先生がいた。「千夏子はお香を創りなさい、と背中を押してくれたのです。千夏子の背負った文化の香りを作りなさい。それは私達にはできないこと」と。西洋と東洋、フレグランスとお香という、異なるバックグラウンドをもつ、香りのクリエイター同志としてのエールだった。もともと、自分でお香を創るという願いを叶えるためのグラースでの修行だったが、その思いをより強くする学びの時間がそこにあった。

グラースの街のたそがれ。鼻が痛くなってしまうほど、香りを学び続けた日々。
グラースの街のたそがれ。鼻が痛くなってしまうほど、香りを学び続けた日々。

2013年、学校を修了したのち、千夏子はグラースにとどまり、香料会社でスタージュ(研修)の場を探した。グラースにはその周辺を含めると約100以上の香料会社、製造会社が集まっている。素晴らしい原料に触れ、自分が創るインセンスの原料を探すためにも、グラースにとどまりたかった。そして、ある香料会社でナチュラルのアシスタントパフューマーとして修行の機会を得る。フランス語よりも英語のほうが理解しやすいため、なにかわからないことがあると、社内でも数少ない、英語を話す同僚のもとへ聞きにいった。千夏子の質問にていねいに説明してくれた同僚、それが人生の、そして東京香堂のパートナーとなる、ペレス ジョフレ、その人であった。その後ふたりがたどる、インセンス創りへの道のりについては、後編へと譲ろう。

>>Premium Japan、東京香堂それは、香りを創るふたり(後編)へ

(敬称略)

東京香堂

東京香堂|TOKYO KODO
東京で寺院専門のお線香販売会社 を営む家の3代目として生を受けた ペレス千夏子と、元プロテニスプレーヤーで、香料会社で働いていたペレス ジョフレ、ふたりのユニットであり、日本と西洋の伝統技術を融合させたインテリア・アロマ・インセンス・ブランド。フレグランスの本場 フランス・グラースで原料を調達。自然との共存をコンセプトに、できる限り上質な天然香料を用いたインセンス創りにこだわっている。

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転載元:Premium Japan、『東京香堂それは、香りを創るふたり(前編)』 インセンス(お香)のある生活を創る。東京香堂のかぐわしい物語のはじまり

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