革新し続ける気概が企業文化。フィリップスの130年目の挑戦。

革新し続ける気概が企業文化。フィリップスの130年目の挑戦。
Text by Yukiko Ushimaru
Photographs by Toshiyuki Furuya

類いまれなブランドストーリーを持つ企業のエグゼクティブにご登場いただき、生み出す商品やサービス、そして企業理念を通して、そのブランドが表現する「日本の感性」や「日本の美意識」の真髄を紐解く、Premium Japan代表・島村美緒による日本のエグゼクティブ・インタビュー。今年創業130周年を迎えるヘルスケア・カンパニー「フィリップス」の日本法人「フィリップス・ジャパン」代表取締役社長 堤浩幸氏に話を聞いた。

革新を続け130年、家電メーカーからヘルステック企業へ

1891年にオランダ・アムステルダムで創業し、世界的な家電機器メーカーとして発展したフィリップス。日本には約60年前に進出し、シェーバーや電動歯ブラシなどでおなじみだが、実はこの10年の間に家電・音響事業や祖業である照明事業も手放し、ヘルスケアに関するアイテムとソリューションを提供するヘルステック企業として生まれ変わっている。

「今年7月に一般家電の部門を売却し、100%ヘルスケア事業となりました。もともとフィリップスは常に先を見ている会社です。来年、再来年というスパンではなく、もっと先の世界を見据えて、企業としてどんな価値創造をしていくべきなのか、事業形態も柔軟に変えていこうという考えを持っています」

世界最大ともいえる家電企業であったとしても、未来を読み、ビジネスとしてのニーズを的確に捉え、ドラスティックに大きく舵を切る。その結果がヘルステック企業への道だったのだ。

「そしてもうひとつが、私達の会社の存在価値がどこにあるかということ。私達は2030年までに25億人の人々の生活を改善するいうパーパス(企業/存在価値)を掲げています。そのためには、多くの人に有効な手段として受け入れられるヘルスケアに注力すべき、それがフィリップスの存在価値であると考えたのです」

日本企業、そしてアメリカ・韓国等の外資系企業を経て、2016年フィリップス・ジャパンへ。
日本企業、そしてアメリカ・韓国等の外資系企業を経て、2016年フィリップス・ジャパンへ。

実はカセットテープを世界で初めて作ったのはフィリップス。その後もCDをソニーと共同開発するなど、常に時代の先を読み、前人未到のチャレンジを良しとする企業文化が根づいていた。

「常にイノベーションしている会社なんです。そのイノベーションが無ければ、130年も続かなかったかもしれません。だから自分たちもどんどん変わっていかなくてはいけないので、日々大変ですが(笑)」

失敗を恐れず、繰り返す挑戦が結果を出す

常に挑戦を求められる企業風土の中、スタッフに伝えているのは「失敗しなさい」ということだ。

「成功しろとは一言もいいません。失敗したら悩むのではなく、すぐアクションを取ることが大事。そこでまた失敗してもいい。やらないリスクよりも、やるリスクの方が明らかに少ないんです。私自身の性格もスーパーポジティブ(笑)。失敗もあるけれど、それも糧にしたい。とにかく前向きに楽しくないと結果は出ないと思っています」

外資系企業によくある、本社の決定事項に従わざるを得ないという悩みもフィリップスでは皆無だという。

「本社から指示は何もなく、基本的に日本に任されています。守るべきルールやスタンダードモデルはありますが、どういう風にゲームプランを立ててプレイしていくのかは私たちに全部任されています。そのかわり責任は重く、日本として何がしたいかは明確に求められます。最終的には数字はもちろん、重要なのはどれだけの価値を生み出せたか、それが一時的な結果ではなく、次に繋がる結果かどうかがポイント。一言でいうと、結果を出しながらも、ロングタームのサステナブルなオペレーションをしていかなくてはいけないということなんです」

フィリップス・ジャパンでは、オンライン診療などの仕組みを導入したヘルスケアモビリティ(医療MaaSモビリティ・アズ・ア・サービス)にも参入。青森市や美濃加茂市とのヘルステックを核とした健康まちづくりなど、さまざまな自治体や大学/医療機関、さらには異業種企業とのパートナーシップを展開しているが、これらはすべてフィリップス・ジャパン自ら主導し実現したものだ。

「160以上の医療機関や自治体、企業とエコシステムを構築していますが、ここまで大きなシステムを作っているのは日本だけ。今後は日本にとどまらず、このやり方が世界の他地域へ波及する可能性も大いにあると思います」

電動歯ブラシ「ソニッケアー」の最上位機種9900プレステージ。アプリで磨き方ガイドも提供する。
電動歯ブラシ「ソニッケアー」の最上位機種9900プレステージ。アプリで磨き方ガイドも提供する。
ヘルスケアとしてスリープテックにも注目。深睡眠の質の向上をめざすアイテム「スマートスリープ」も多数開発している。
ヘルスケアとしてスリープテックにも注目。深睡眠の質の向上をめざすアイテム「スマートスリープ」も多数開発している。

世界をフェアに見る視点はグローバル企業の経験から

さまざまな変化に柔軟に対応し、新たな挑戦をいとわないその姿勢は、フィリップスの企業文化であるとともに、堤氏のビジネスに対する姿勢とも通じる。大学卒業後入社したNEC以来、シスコシステムズ、サムスンそしてフィリップスと、さまざまな文化背景を持つ企業でマネジメントを経験。そんなバックグラウンドから、グローバリゼーションにおいても、世界をフェアに見る視点を大切にしているという。

「まずその国のカルチャーを理解しなければ、ビジネスは成り立たないと思います。とにかくやってみて問題が出たら解決しようという文化もあれば、常にリスクを想定しどう対処すべきか考えながら前進する文化もある。そういったカルチャーを理解せずに、ビジネスがうまくいかない、われわれと合わないと判断するのはちがうと思いますね」

だからビジネスで大事なのは、やっぱり人と人とのコミュニケーション。日本、アメリカ、アジア、ヨーロッパと異なる文化を持つ企業を経験したからこそ、その基本の大切さをより感じている。

「特にフィリップスは、チームワークや人を大事にする会社です。実は毎年トップマネジメントを集めた合宿があるんです。場所は毎回グランドキャニオンのような大自然。1週間携帯もPCも持ち込み禁止で、荒野を歩きキャンプ/テント生活を送るんです。私も参加していますが、まさに軍隊のブートキャンプのような厳しさ(笑)。ここでは事業の戦略を考えることももちろんですが、まず極限の中で自分の潜在意識を掘り起こし、自分の行いをどうすべきかを考えていく。さらに参加者同士の信頼を高めながら、結果的に企業としてやるべきことやお客さまへどんな価値を創造すべきなのかなど、企業課題へと導いていくんです。チームビルドとともに、自分自身を鍛えるという、ある意味日本企業以上に日本的なやり方かもしれません」

大自然の中で実施されるエグゼクティブキャンプ。
大自然の中で実施されるエグゼクティブキャンプ。

日本人が持つ考え方、それこそが日本の美意識

そんなさまざまな文化とビジネスの現場を知る堤氏にとって、日本の美意識とはどんなところにあると感じているのだろうか?

「まず前提として、日本人は自分がマジョリティだと思いがちではないでしょうか。でも日本語をしゃべるのは日本人だけのように、日本人は実はマイノリティ。歴史も文化も考え方も日本独特のものが多いはず。その違いに気がつけば、日本人が日々行っていることや考え方、それ自体も日本人の“美”だと気づくと思うんです」

美意識は、歴史や文化という側面だけではなく、日本人が持つ考え方そのものにも息づいていると堤氏は言う。

「例えば日本人の謙虚さや礼儀正しさも、ひとつの美意識だと思います。さらに日本人は過去も現在も未来も、常にある一定のバランスで見ることができる。国によっては、過去を重んじるべきで直近の未来しか見ないという考えや、逆にもう過去は必要ないと先の未来を見ることを良しとする考えもありますよね。日本人はなかなか外には出さないので、何もやってないように見えますが、実は何事においてもバランス感覚はすごい。それこそ日本人の美意識と言えると思います」

社内のカフェの壁には、過去に使われたフィリップスの広告ポスターが。
社内のカフェの壁には、過去に使われたフィリップスの広告ポスターが。

人生を豊かに過ごすために。無限に広がるヘルスケアの未来

この9月には誰でも簡単に操作できる家庭用AED「ハートスタートHS1 Home」を日本でも発売開始。他にもeICUやデジタル病理など医療ソリューションから、eHomeCareやオーラルヘルスケア製品など家庭内ホームケアまでフィリップスが関わるヘルスケアの範囲はまさに無限だ。

「これからは人間の体温や血圧などのバイタルを、非接触で測れるようになると思います。そうすれば24時間365日、家にいても身体の状態がわかる。在宅医療の在り方も変わって来るでしょう。さらに病院でも医師や看護師のワークフローも変わり、ナースステーションも必要なくなるかも。すでにこれらのベースの技術はありますので、そんなAIホスピタルも遠い未来ではありません」

家庭用AED「ハートスタートHS1 Home」。使用する際は音声がガイドするので、初心者にも扱いやすい。
家庭用AED「ハートスタートHS1 Home」。使用する際は音声がガイドするので、初心者にも扱いやすい。

プライベートでは時計好きでもある堤氏。

「私にとって時間は本当に大切なもの。1分1秒を後悔したくない。『あの時こうしたら…』ではなく、『やって良かった』と思う時間を多くしていきたいんです。だから、時計もいろいろ持っていますが、基本的に秒針がついていないとダメなんです(笑)1秒1秒を刻む、その感覚が好きなんです」

堤氏が1秒に思いを込めるように、1分1秒の時間は誰にでも平等に与えられるもの。それをいかに有意義に使えるか、そしてその人生の時間を悔いなく使うために、フィリップスの技術は確実に人の生活を変えていくはずだ。さまざまな場面でヘルステックが私たちの健康を支え誰もが豊かな時間を享受する、その未来を楽しみにしたい。

アップルウォッチも所有するが、お気に入りは機械式のアナログ時計。
アップルウォッチも所有するが、お気に入りは機械式のアナログ時計。

転載元:Premium Japan、『日本のエグゼクティブ・インタビュー』革新し続ける気概がフィリップスの企業文化 フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤浩幸氏

PROFILE

堤浩幸

堤浩幸

堤浩幸

1962年山梨県生まれ。1985年慶応義塾大学理工学部卒業後、NECに入社。2004年にシスコシステムズに入社し、2006年に取締役就任。2007年スタンフォード大学ビジネススクール修了。2009年シスコシステムズインクのバイスプレジデント就任。2015年サムスン電子ジャパンCEO就任。フィリップス・ジャパンには2016年副社長として入社。2017年より現職。

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Premium Japan代表・発行人
島村美緒

Premium Japan代表・発行人
島村美緒

外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、 ティファニー&Co.などのトップブランドにてマーケティング/PR の責任者を歴任。2013年株式会社ルッソを設立。様々なトップブランドのPRを手がける。実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える環境にあったことから、 2017年にプレミアムジャパンの事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。2019年株式会社アマナとの業務提携により現職。

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