ウィズコロナ時代を生き抜く、新しい働き方とは?

vol.63

働き方が逆転する?
電通Bチームが示す、「B面」を活かした仕事術

ウィズコロナ時代を生き抜く、新しい働き方とは?

Text by Mitsuhiro Wakayama

SPEAKER スピーカー

アフターコロナという時代に突入しようとする昨今、従来のワークスタイルやビジネス観は「変革」の波にさらされています。しかし、そう簡単に変えられない、どう変えたらいいかわからない。「より良いメソッド」を知りたいけれど、どこにどうアプローチしようか。モヤモヤしている人は多いはずです。

株式会社電通の特殊クリエイティブチーム「電通Bチーム」は、昨今の状況をリードするような、新しい働き方やオルタナティブな発想を次々に生み出しています。広告業(=A面)以外に、個人的なB面(=私的活動、すごい趣味、前職など)を持った社員が集まって組織されているBチーム。

なぜ、いま仕事に「好き」が活きるのか? どうすれば、みんなのクリエイティビティを底上げできるのか? 今回のトークイベントでは、Bチームのリーダー・倉成英俊さんをはじめ、個性あふれるBチームメンバーをゲストに迎え、働き方の「ニューノーマル」について想像してみました。

すべての人が持っている「B」を活かすチームづくり

電通Bチーム

倉成英俊(以下、倉成):まず「電通Bチームって何なの?」というところから、お話ししていきたいと思います。始めたのは2014年の7月1日、ちょうど今年で活動6年目になりました。電通内のオフィシャルな部署ではあるんですが、リリースまいたりして対外的な広報はしませんでした。デジタル業界でいうところの、いわゆる“サイレントローンチ”というやつで、こっそり始まった地下組織的なチームなんですよね(笑)。

電通Bチーム初代リーダーの倉成英俊さん(左)と「H編集長」のタジリケイスケ
電通Bチーム初代リーダーの倉成英俊さん(左)と「H編集長」のタジリケイスケ

なぜ「B」なのかというと、それにはふたつ理由があります。まずひとつは「社員のB面をネットワークしているから」です。「B面」というのは、本業以外の私的な活動のことを指しています。あるいは、本業では活かされない特殊な性能といってもいいかもしれません。例えば「行き過ぎた趣味を持っている」「大学の専攻が特殊だった」「前職がぜんぜん違う職種だった」とか。そういう個性=B面を持った人たちだけを集めてつくったのが「電通Bチーム」です。最初は少人数で始まりましたが、いまでは56人います。56人のB面、得意分野はそれぞれ何かと言えば「旅」「AI」「古着」「SNS」「漫画」「美容」。はては「薬学」「世界のカフェ」「未来予測」といったものまで、本当にさまざま。

電通Bチーム

それと「B」にはもうひとつ、「いままでとは違う方法」という意味が込められています。“plan B”とか“approach B”っていう言い方ありますよね。つまり、既存のものとは違った方法論、その提供だけに特化した組織として電通Bチームはあります。「もう少し、ココがこうなればいいのにな」という課題を解決するオルタナティブな考え方(コンセプト)を、56人=56ジャンルのアイデアを応用することで生み出していく、と。

電通Bチーム

月に一度、56人が集まる会議をやるんです。「ポテンシャル最終会議」と言っていますが。そこからいろんなコンセプトが生まれてくるんですよね。

電通Bチーム

例えば、建築担当が「いま建築家はこう考えている」というプレゼンをしたとします。すると、やはり同じ時代を生きているわけだから「パティシエも建築家と同じような考え方でお菓子を作っている」ということに気づく場面がある。で、その「同じような考え方」には名前が付いてないことが多いと。であれば名付けようということで、その考え方に名前を付けると、それがひとつのコンセプトとしてハンドリング可能になるわけです。Bチームには、そんなふうに生まれたコンセプトがわんさかあります。

電通Bチーム

次に、コンセプトがどういうふうに外に提供されてるのか、事例を基にお話ししますね。Bチームはコンセプトを生み出すための「発想法」をいろいろ持っています。発想法にはニーズがあって、それを使って多くの企業にコンセプトを提供しています。どういうふうに提供するかということですが、例えば「10ジャンル同時ブレスト」というやり方があります。

10ジャンル同時ブレスト

まずA社の人から「新しい写真サービスを考えたいんだけど」という相談があったとします。それに対してBチームからは「誰とブレストしたいですか?」と質問をします。A社さんは56人のなかから好きなメンバーを選んで、ミーティングに出席させることができます。オーダーが「新しい写真サービス」なので、まずは「写真担当」。それから「SNS担当」「AI担当」なんかも関係ありそうだと。それから「教育」と写真って新しいかも、とか。「旅」「DJ」みたいなところと絡めるのもいいなとかね。そうやって56ジャンルから10ジャンルピックアップして、みんなでブレストするわけです。

他には「Prototype for One」っていうやり方もあります。皆さんご存知の「公文式(くもんしき)」学習法ってどうやってできたか知ってますか? あの学習法は、公文公(くもん・とおる)さんという教育者が、自分の息子のためだけにつくったメソッドなんですよ。つまり、いま世界中の子供たちのために使われている教育メソッドは、実はたった一人のために生み出されていたことなんですね。

Prototype for One

この“一人のためにつくる”というアプローチを、「Prototype for One」と呼んでいます。一時期よく「商品にはストーリーが必要」とか「これからストーリーを消費してもらわなければ」みたいな話が盛り上がりましたよね。Prototype for One はまさにその理にかなっている。愛する一人、大切な一人のためにつくったもの、つまりユニークなストーリーを持ったものが必然的に生まれてくるわけですから。もちろんそれだけじゃなくて。特定の個人を思い浮かべてつくることで具体的な課題を設定することになるし、その個人の趣向や特性を考慮するから解決方法も普通とは違ったおもしろいものになる。だから世界初のものが生まれやすい。そうやってアイデアをどんどん出していきます。

最終的にはそのなかから「これは“この人”だけじゃなく“あの人”にも適応可能だよね」という案を採用していくと。このように、プロダクトやサービスにストーリーやユニークな性格を持たせたいというクライアントさんには、このPrototype for Oneを発想法として提案しています。こういうメソッドは電通Bチームのウェブサイトにリスト化してあるので、興味がある方はぜひ見てみてください(この対談の後、7月17日に発売された『ニューコンセプト大全』(kadokawa)には、Bチームが開発した50個のコンセプトが収められています。こちらもよろしければぜひご覧ください)。

「CURIOSITY FIRST」な才能が世界を変える

倉成:電通Bチームを立ち上げたとき、方針として掲げたワードは「CURIOSITY FIRST」でした。“好きこそものの上手なれ”を証明する感じですね。好きであるからこそ、前向きに、自発的に、労を惜しまずできるわけです。例えば、リサーチひとつとっても、好きなことだったらリサーチする必要がないですよね。毎日触れているし、毎日知識や情報を得ているわけですから。あらかじめ課題に対して膨大なレファレンスを持っているから、クライアントにアイデアを提案するまでがものすごくスムーズにいく。好きでもないことや嫌いなことをやらされているのでは、ここまでのパフォーマンスは発揮できないですよね。

電通Bチームを立ち上げたとき、方針として掲げたワードは「CURIOSITY FIRST」

そういう「好き」は、ある種の才能です。天賦のもの。僕たちは「自分たちのデザイン」というビジョンを掲げているんですが、これには、その才能で自分の周囲をより良くデザインしていこうっていう意味を込めてます。これは、電通Bチームの56人が、という話ではありません。電通社員という意味でもない。クライアントをはじめとした、プロジェクトに関わるすべての人の才能によって、より良い環境を生み出していこうということです。

「誰か一人が与えられた才能を100パーセント発揮すれば世界は変わる」と僕は考えています。だからこそ、社員のみんなには活躍してほしいと願っている。もちろんそれは一人では難しいです。才能を引き出したり、引き出されたりしながら相乗的にパフォーマンスを上げていく。そういう「働く場」があるといいんじゃないかと。

電通Bチーム初代リーダーの倉成英俊さん(左)と「H編集長」のタジリケイスケ

6月8日に『仕事に「好き」を、混ぜていく。』という本が翔泳社から出たのですが、その編集者から最初に聴かれた質問が「個人の“B面”ってどうやって発見するんですか?」でした。それで、個人と“B面”の関係について56人にアンケートをとってまとめてみたんですが、大きく5タイプにわかれていました。今日はこの“B面”との関わり方がそれぞれ違う5人を呼んで、いろいろ話を聴いてみたいと思います。

まずひとつ目は「私的活動タイプ」ですね。副業が認められている会社では「副業」もここに含まれます。そのように個人的に何か活動をしている人をこのタイプにカテゴライズしました。今日はこのタイプを代表して、Bチーム「PLAY」担当の大山徹くんを呼んでいます。

大山 徹さん

大山 徹(以下、大山):僕は「PLAY」担当ということで、ゲームを自分の“B面”にしています。デジタルもやるんですが、最近はアナログのボードゲームをメインのフィールドにしています。プレイして得た知見をBチームの仕事で活かしたりしていますし、「daitai」や「nanawari」というユニットを結成して自分たちでボードゲームを考案したりもしています。マーケティングの観点から「こういうのが売れるんじゃない?」みたいな考え方ではなく、純粋に自分たちが楽しめるゲームを作って発表していますね。

大山さんが手掛けたゲーム

大山:「ポラリッチ」というゲームを作るきっかけになったのは、子どもの宿題だったんですよね。僕の子どもが小学校1年生のとき、学校から出されるドリルの宿題をやらなくなっちゃったんです。それで、子どもがもうちょっと楽しく算数をできるようにならないかなと思って、このゲームを妻と一緒に作りました。

倉成:「公文式」と一緒だね。「Prototype for One」だ。

大山:そうですね。まぁ、Oneのために作り始めたという点ではそうなのですが、作り始めて1週間くらいでマス化を意識してましたけどね(笑)。

倉成:彼の手がけた「ミラクルワード」という発想法もかなり内外で評価が高いです。こういうプロ/セミプロレベルの活動を“B面”に持っている人もいます。

言葉をランダムに組み合わせて新たな発想を得る「ミラクルワード」
言葉をランダムに組み合わせて新たな発想を得る「ミラクルワード」

次に、ふたつ目のタイプは「趣味タイプ」ということで、松永奈々さんを呼んでいます。

松永奈々さん

松永奈々(以下、松永):「世界のカフェ」担当ということでBチームに参加しています。私は東京で生まれたんですが、マレーシア・沖縄・フランス・ベトナムで育ちました。いろいろな街で生活したおかげで旅行が趣味になり、なかでも旅先で見つけたおしゃれでおもしろいコンセプトのカフェを開拓するのがライフワークになっています。

倉成:いつからやってるの?

松永:社会人になってからですね。

倉成:松永さんは、“A面”では電通のラジオテレビビジネスプロデュース局テレビ業務推進部っていうところにいるんですが、1年前くらいからBチームに参加しています。彼女の発言は毎回すごくおもしろいんですが、それはやはり自費で世界中周って、自分の足でかせいだ情報に基づいてるからなんだと思います。説得力が違う。今日はいくつかアジアのカフェの事例を紹介してもらいましょう。

アジアのカフェ
写真撮影:松永奈々

松永:これは香港のカフェなんですが、一見するとハードな外観でなんのお店かわかりません。でも、中はおしゃれなバーの空間が広がっていて、外国人もたくさん訪れていました。また台湾にも、一見するとテーラーなんだけど、奥がカフェになっているお店がありました。このほかにも「外見は〇〇なんだけど、実はカフェ」という意外性に富んだお店はアジア各国でたくさんみられて、いま流行しているスタイルのようです。

韓国のカフェでは、テイクアウトが楽しくなる工夫が結構見られて、リサーチしたことがあります。最近のコロナ禍の影響で、日本でもテイクアウトは増えてきています。でも、もともとそういう文化が希薄だったため、デザインや仕組みにイマイチおもしろさがないのは惜しいなと。韓国では、かわいいパッケージのテイクアウトカップや、カフェ毎に違うオリジナルボトルが売られていたりして、“飲み歩き”文化があります。そういうカルチャーを日本でも起こせないかなと思いながら、リサーチを続けています。

 “B面=好きなこと”ではない?

倉成:ありがとうございました。次は3つ目、「バックグラウンドタイプ」ということで、キリーロバ・ナージャさんに話してもらいましょう。

キリーロバ・ナージャさん

キリーロバ・ナージャ(以下、ナージャ):私は「世界の教育」担当をしています。とはいえ最初は、自分にそういう“B面”があるとは思っていませんでした。でもあるとき、自分のバックグラウンドの特殊性に気づくことになったんです。『Forbes Japan』が教育特集をするとき「誰か世界の教育事情に詳しい人いませんか?」という問い合わせがあったんです。そこで倉成さんが「うちに世界各国で教育を受けてきた“当事者”がいますよ」って紹介してくれたんです(笑)。それで取材を受けることになりました。

『Forbes Japan』に世界の教育特集で取材を受けたナージャさん
『Forbes Japan』に世界の教育特集で取材を受けたナージャさん

自分のバックグラウンドは、自分にとってはそれが「普通」だと思っていますから特に意識もしません。でも、自分の経験を話しておもしろがってもらったときに初めて、それが「特殊」なことであり、話すことで他人にも少なからず価値があることなんだと気づきました。私の“B面”はそこからスタートしています。

倉成:ナージャさんはロシアで生まれ、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダで教育を受けてきた経験があります。エリート教育というよりは、その国の市井で一般的な公教育を受けてきた。その比較を『電通報』に連載したものがスマッシュヒットしたんですよね。

世界の座席図鑑

ナージャ:そのなかで一番有名なのが上図の左にある「世界の座席図鑑」です。教室の座席ひとつ取っても、各国の様子は違います。日本は個別の机椅子が縦横に整列して、みんな前を向いています。ロシアはこれと似ていますが、机は二人で共有します。イギリスはひとつの机を6人で囲むグループワークのスタイルで、成績もグループごとに付けられます。だから、ひとりだけ勉強ができてもダメで、みんなで教えあいながらステップアップしていかなければいけない。

フランスは個別の机椅子が教室内にロの字に並べられます。私がいたのは、フランス語がまだ堪能でない外国人のクラスでした。お互いに十分コミュニケーションが取れないなかで、みんなで向かいあって生活するというのが日常でした。

アメリカは机と椅子の他に、教室の真ん中に大きなソファが置いてありました。個別作業と会話を違った設えで行うメリハリのあるスタイルです。こんな感じで、各国の教室事情は「どんな子を育てたいか/どんな社会をつくりたいか」によって、際立った特徴がありました。

倉成:ナージャさんの体験は『ナージャの5つのがっこう』(大日本図書)という絵本にもなりました。僕が立ち上げた「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」にも関わってもらっています。

「世界の座席図鑑」が話題となり絵本になり、さらには各地からメディア取材を受けた
「世界の座席図鑑」が話題となり絵本になり、さらには各地からメディア取材を受けた

次は4つ目、「学校の専攻タイプ」。建築を専攻していた奥野圭亮くんに来てもらいました。

奥野圭亮さん

奥野圭亮(以下、奥野):僕の担当は「建築」ですが、コンテンツから建築を考えることもあり「コン築」担当と言っていることもあります。ナージャが話していた教室の配置なんかは、まさにコン築かなという感じがします。建築はともすると外観を重視しがちですが、中身から考えていくと建築ってもっとおもしろいものになるんじゃないかなとか。極論を言えばハコはいらないんじゃないかなとも思います。建築が暮らしをアフォードするんじゃなくて「“やりたいこと”から建築をつくる」という発想が大事かなと。

「コン築」

Bチームの仕事で、某有名観光地の駅前を再開発するプロジェクトに参加しました。僕の他に「旅」担当と「エクストリームスポーツ」担当も座組みに加わって。おもしろかったのは僕がハード以外のところから建築を考えるように、旅担当は「旅の起点」や「過ごし方=時間」という側面から空間の全体性を考えていたり、「エクストリームスポーツ」担当は地勢やレジャーをどう楽しむかという発想で再開発のあり方を考えていたところです。異質なものが接触すると新しいアイデアが生まれやすいし、それをかたちにしていくのはおもしろいなと思いましたね。

倉成:ありがとうございました。最後は「その他タイプ」ですね。彼らもまたユニークなんですよね。今日は代表して、森口哲平くんに来てもらいました。

森口哲平さん

森口哲平(以下、森口):僕は「ルール」担当としてBチームに参加しています。

倉成:どういうふうに“B面”を発見したのか、そこの話をぜひ。

森口:僕は先の4人みたいに、際立った個性を持ってるわけではないんですよ。入れ込んでいる趣味も、突飛なバックグラウンドもないし。だから最初は、Bチームのミーティングに参加しても、何もできなかったんですよね(笑)。でも、みんなのプレゼンを聴いていて気になったことがあって、それがいろいろな事例に出てくる「ルール」の存在だったんですよね。

ある業界独特の習慣や決まりごともうそうですし、法律や条例もそうです。人の言動を規制するのがルールなんですが、実はクリエイティビティはルールを逆手に取ったり、乗り越えようとするときに生まれることが多い。また逆に、人をハッピーな気分にさせるルールも存在します。そんなふうに、ルールについて調べていったらどんどんおもしろくなって、結果的に得意分野ができたという感じです。言ってみれば、「ないからつくった」のが僕の“B面”ということになりますね。

倉成:「その他タイプ」は森口くんのように“人を見て決めた”とか、“人に言われてそうした”というタイプですね。彼は「ルール学」というコンテンツも手がけています。

ルール学

森口:さまざまなルールを横断して、そのなかから法則性や一般性を抽出するっていうアカデミックなことができないかなって思ったんです。抽出したアルゴリズムを使って、また新しいルールをつくったりとか。そういうことを学生さんたちと一緒にワークショップというかたちで考えたりしています。

倉成:ありがとう。いま5タイプの代表を紹介しましたけど、こんなユニークな人たちがあと50人います(笑)。

来るべきアフターコロナのために、“B面”の5つのメリット

タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):ここからは皆さんとディスカッションをしていきたいと思っています。まず最初のテーマは「なぜ、いま仕事に“好き”が重要なのか?」ということです。効率化を進めるということは画一化を進めることでもあるので、「仕事の仕方も人それぞれ」にも限度があると考えられてきたのが従来です。だけど、そういう働き方の「非効率」が指摘されて久しい現在、次のかたちとしてどういうことが考えられるんだろうと。

電通Bチーム初代リーダーの倉成英俊さん(左)と「H編集長」のタジリケイスケ

奥野:まず「“好き”を仕事にする」と「仕事に“好き”を混ぜていく」というのを区別する必要はあると思います。前者はかなり難しい。サーフィンが好きな程度では、サーファーにはなれませんから。好きなことなのに、気負ってプレッシャーになっては本末転倒です。だから、あくまで本業に好きなことを5~10パーセントくらい混ぜていくのが有効性を発揮するポイントなのかなと。やらされてる感が出てきちゃうのは良くないと思いますね。

奥野圭亮さん
電通Bチーム「建築(コン築)」担当の奥野圭亮さん

倉成:僕は「好きを仕事に」という考え方そのものがすごい嫌いなんですよね。そんな自己啓発本は世の中にあまたあります。たしかに、大山くんや松永さんは好きなことが仕事に活きてますが、ナージャは好き嫌い以前に自分のバックグラウンドを活かしているわけだし、奥野くんも好きなことを扱っているわけじゃない。僕なんかはそもそも広告の仕事が好きで入社したわけだし。重要なことは、好き以外に特技や特徴も含めたパーソナリティに軸足を置いたビジネスを組み立てることですかね。それは必然的に独創性を持つし、発案者が自信を持つきっかけになる。次のキャリアにもつながります。

大山:僕は広告の仕事も好きですし、ゲームプランナーとしての活動ももちろん好きだからやっています。ただ、実績がない“好き”は“B面”にはならないのかと言えば、そうでもないと思います。僕はべつにゲーム業界のトップクリエイターとかではないです。僕くらいの情熱や実績を持った人なんて世の中にたくさんいます。でも「広告×ボードゲーム」となったら、そういう人はかなり少数なんじゃないかと思うんですよね。「好きなことはあるけど仕事とは混ぜにくい」と考えている人がいたら、逆にチャンスというか。それは独自路線になりやすいことなのかもしれません。

大山 徹さん
電通Bチーム「PLAY」担当の大山 徹さん

森口:“好き”を仕事に混ぜることのメリットって、いい意味で「ポジショントーク」ができることだと思うんですよ。組織に属していると、会社の方針とか役職とか立場によって話す内容があらかじめ制限されちゃうことってあると思うんです。誰しも持っている社会性が、個性的な部分を抑圧して、尖り=ユニークな部分を丸くしていく。

でも、ここに“好き”っていうパーソナルなことを混ぜることで、普段とはまったく違う立場から発言することができると思うんですよね。「建築担当としては……」とか「旅担当的には……」みたいに。それは一種の「仮面」とか「役」のように、組織内の普段の自分とは違った自分を演じられるきっかけになると思うんです。そういうポジショントークが求められる場だったら、極端な意見や新奇な意見も言いやすいですから、クリエイティブな発想も生まれやすいんじゃないかなって。

森口哲平さん
電通Bチーム「ルール」担当の森口哲平さん

倉成:カタカナ職業の“クリエイター”っぽい職業だからBチームって成り立つんでしょう?という質問がよくありますが、違います。声を大にして言いたい。そもそも、クリエイティブ産業なんていう産業は、ありません。世の中のすべての職業はすべてクリエイティブです。どんな人も、それぞれの職業で、独自のクリエイティビティを発揮しています。だから、例えば先生や魚屋さんだとしたら、「先生でもありつつゲーマー」とか「魚屋さんでもありサーファー」みたいな方がいらっしゃったらどうでしょう? めちゃくちゃよくないですか? 凝り固まった職業病的な常識観とちょっと違った、もうひとつの見方を持つと、その人の仕事はだいぶ変わってくると思いますよ。

ナージャ:複数の異なる価値観やルールを横断していると、一つひとつの物事が客観的に見えてきます。すると「この制度のなかではこう振る舞わないといけない」というプレッシャーから解放されて「いや、こんなふうにも振る舞うことができるんじゃないか」という発想が生まれてきます。あるいは「このプロダクトはAからはこう見えるけど、Bからはこう見える」というように、一歩引いた広い視野で既知の事柄を捉え直すこともできます。ひとつの常識にどっぷりはまっているときは見えなかったことが、“B面”からだと見えてくる。それによって行き詰まりからも脱却できるということですね。

キリーロバ・ナージャさん
電通Bチーム「世界の教育」担当のキリーロバ・ナージャさん

松永:私は自分の好きなことを公認というか、肯定してもらっていることがポジティブな力になっています。それが“A面”に活かせているかというと、模索中ですが、そうやって個人的に力を入れていること、好きなことをオフィシャルに組織の中で肯定してもらえることで、仕事のモチベーションが大きく上がった実感はありますね。

松永奈々
電通Bチーム「世界のカフェ」担当の松永奈々さん

タジリ:「アフターコロナ」とも言われるいまからの時代。求められる新しい働き方があるとすればどのようなものだと思いますか?

奥野:建築における独創性って、現場の制約に由来することがほとんどなんですよね。さっきの森口くんの話にもあった通りです。過酷な状況に建物を立てようとすればするほど、必然的に独創性を帯びてくる。コロナを考えるときも、ある意味では同じだと思います。コロナによってできなくなったことを嘆くのではなく、いままで通りできないなかで「じゃあどんなことなら可能なのか」と考えていく。

倉成:そう、この制約をどう活かすかだよね。家にいる時間が長くなったから、料理に凝り始めたという人がいたとして。意図せずアップさせちゃったそのスキルを、どう活かすかが求められているわけですよ。これから生まれてくる新しいもののなかには、「コロナがなかったら絶対こんなものつくるはずじゃなかった」っていうものがたくさん含まれているんじゃないかな。シェークスピアの詩やニュートンの業績だって、彼らがペストで引き込もっていたときにできたものなんですから。どうしたら「現代のシェークスピア」になれるのか。考えている人は、もういまから考えてますよ。

森口:コロナによって明らかになったのは、個人の「時間の使い方のうまい/ヘタ」だと思うんですよね。暇な時間が増えて困っている人、つまり時間割的なルールがないと動けない人は「ヘタ」な人だし、創造性には乏しいと言わざるをえない。でも逆に、時間の使い方が自在になったとか、オンラインで時間空間の制約を気にせず人と話すことができるようになったと考える人もいます。状況に適応した新しい振る舞い方を自分でつくり出している。要するに「おいしいところ」「得したところ」を自分なりに活かしたり、楽しんだりできるのかが重要な別れ道になるんじゃないかと思いますね。

倉成:そうですね。こういう転換期というか、劇的に状況が変わったときに、自分に潜在している“B面”に気づいて、活かせるかということがポイントになってくるんじゃないでしょうか。 今日はこのメンバーでは初めてのウェビナーでしたが、Zoomの画面にメンバーが一覧で出てくるのもすごく良かったです。コン築担当が左上でルールのことを触れたら、ルール担当が右下で別の意見を言う。通常もこのようなかたちでポジショントークしながら進んでいくんですね。まさに、電通Bチームを仮設空間で表していました。

当日のZoom画面(イメージ)
当日のZoom画面(イメージ)

最後に一言だけお伝えしたいと思います。今日は『働き方が逆転する? 電通Bチームが示す、「B面」を活かした仕事術』というタイトルでお送りしてきました。働き方が“逆転”するかどうかはさて置き、いま言われている通説や世の中の常識に対して、もっとみんなで本音を言い合えるようにならないとダメだと思います。

奇しくも、われわれは新型コロナウイルスという未知のことを経験しています。誰も答えを知らないからこそ、自分がこう思う、こういうことをやりたいとピンときたら、いまこそ“勝手にやる”べきです。その一例が電通Bチームです。でも、方法はそれだけじゃない。だから、いまこそ勇気を持ってそれをやらない?と参加してくれた皆さんに強く言いたいです。

タジリ:ゼロベースで何かをつくり出さなければいけないいまは、むしろチャンスだと思います。コロナ禍は自分にとって何が大切かを考えさせられる機会でもありました。それが自分らしい働き方や新しいクリエイティブにつながっていったら嬉しいです。本日はありがとうございました。