自然から学び、“遠回り”のアート思考で切り拓くもうひとつの可能性

vol.70

アート表現からはじまる、社会とのコミュニケーション

Text by Mitsuhiro Wakayama

Photographs by Honami Kawai

私たちの社会がターニングポイントに差し掛かっている現在、きっと多くの人々が焦燥感を抱えているはずです。現状を乗り切るため、未来を見通すため、一刻も早く「答え」を出したいと。しかし、そう簡単に答えなど見つからない。それどころか最速で答えにたどり着こうとするほど、越えられない壁に何度もぶつかってしまいます。しかし「遠回りするからこそ越えられる壁がある」。アーティストのAKI INOMATAさん、バイオミミクリデザイナーの亀井潤さんはそう指摘します。サイエンス・アート・ビジネスを横断するふたりに学ぶ、ポストコロナ時代の思考法とは?


今回のトークセッションのオンライン配信は、デジタルファブリケーションを活用した作品づくりに取り組むINOMATAさん、亀井さんとも親和性の高いアマナのプリントディレクションサービス「FLATLABO」で行われました。FLATLABOには世界最高品質の大型UVプリンタがあり、作品の表現を引き出すプリンティングサービスから展示プランにいたるまで、実現したい「コト」を最大限にアウトプットしています。

M.C.BOO(株式会社アマナオモシロ未来研究所):本日お呼びしたおふたりは非常におもしろい活動をされていて、以前から注目をしていました。おふたりに共通する部分は2点あります。ひとつは、テクノロジーを自らの表現に積極的に取り入れているところ。もうひとつは自然と人間の共生について、独自のアプローチで考察をされているところですね。

タジリケイスケ(株式会社アマナ「amanatoh」編集長/以下、タジリ):前半でまずおふたりの活動を紹介していただき、続く後半ではテーマに沿ったパネルディスカッションをしていきます。それでは、まずはINOMATAさんから、これまでの活動についてお話ししていただけますか?

アマナのプリントディレクションサービス「FLATLABO」。登壇者の背後にあるのは、世界最高品質の大型UVプリンタ
アマナのプリントディレクションサービス「FLATLABO」。登壇者の背後にあるのは、世界最高品質の大型UVプリンタ

最新の表現法を駆使した自然への新たなアプローチ

AKI INOMATA(アーティスト/以下、INOMATA):私はアーティストとして美術作品を作っています。最初にご紹介するのは、現在(2020年12月)ニューヨーク近代美術館(MoMA)で展示中の作品です。《進化への考察 #1:菊石(アンモナイト)》と題した、映像をメインパートにしたインスタレーションになります。映像では、3Dプリンタで出力したアンモナイトの殻をタコに渡したときの過程が映っています。

タコとアンモナイトは祖先が一緒だと言われていますが、後者は既に絶滅しています。「両者を、時空を超えて再会させたい」というアイデアが、この作品の出発点です。3Dプリンタを使って、擬似的に「違う時空」をつくり出しています。

AKI INOMATA 《進化への考察 #1:菊石(アンモナイト)》

これは《貨幣の記憶》という2018年から発表している作品です。ワシントンやエリザベス女王、毛沢東といった紙幣に印刷された偉人の顔を“核”にして真珠をつくりました。

AKI INOMATA 《貨幣の記憶》
AKI INOMATA 《貨幣の記憶》

タジリ:どれくらいの期間がかかったんですか?

INOMATAかれこれ5年くらいになるでしょうか。いまもまだトライ・アンド・エラーの最中ですね。

これは《やどかりに「やど」をわたしてみる》という作品です。

AKI INOMATA 《やどかりに「やど」をわたしてみる》
AKI INOMATA 《やどかりに「やど」をわたしてみる》

タジリ:INOMATAさんの代表作ですね。

INOMATA3Dプリンタでつくった透明な殻をヤドカリに渡したときの様子を映像にしています。殻の表面の凹凸は、実在する都市のランドマークをかたどったものです。ヤドカリが「都市」から「都市」へと引っ越していく様子は、グローバル社会における人の流動のメタファーでもあります。

日本に住んでいると、別の国へ移住するとか、国籍を変えるということは自分と縁遠いことだと思えます。でも、この作品を発表すると、そのような経験をされた人たちと対話する機会が増え、移民問題やアイデンティティについて考えるようになりました。それはいまも変わりませんし、今後もライフワークのようにずっと続けていくことになると思います。

タジリ:殻に装飾されている「都市」は、どういった基準で選んでいるのですか?

INOMATA移民や移住というキーワードから選んでいることが多いですね。あとは違う文化圏を象徴するような建物を含む都市とか。例えばベルリンだったら、ライヒスターク(国会議事堂)がドイツの分断と統合の象徴であり、移民を積極的に受け入れる姿勢を語るうえで欠かせない建築物である点に注目しました。同時にここは、クリスト&ジャンヌ=クロードが建造物を巨大な布で覆う「梱包プロジェクト」を実施した美術史的にも重要な場所であります。全てに言えるのは、私自身が強く興味を惹かれた場所であるということですね。

アーティストのAKI INOMATAさん
アーティストのAKI INOMATAさん

タジリ:透明の殻を作るまでのプロセスは?

INOMATA:まず本物の貝殻を回転させながらCTスキャンします。次に3次元モデルを作り、最終的に3DCGソフトを使って貝殻と建物の造形を合成していきます。生体適合性の高い素材をどうしても使いたかったため、出力はストラタシスの3Dプリンタを使用しています。

M.C.BOO:最新のテクノロジーを使うプロセスも興味深いのですが、特におもしろいのは従来とは違ったやり方で「自然と環境」にアプローチしていることですよね。続いて、亀井さんのお仕事もご紹介いただければ。

人と自然の境界線を超える表現技術

亀井 潤(マテリアルサイエンティスト・バイオミミクリデザイナー/以下、亀井):私は、現在イギリスを拠点に活動しています。材料工学研究やデザインワークもするのですが、最近は専ら《AMPHIBIO(アンフィビオ)》という“人工エラ”のプロジェクトに取り組んでいます。

《AMPHIBIO》
《AMPHIBIO》

私の専門領域はバイオミメティクスという分野です。自然から学んだことをデザインやテクノロジーに応用していく学問ですね。もともとは東北大学で材料工学を専攻していたのですが、より社会にコミットできる学術研究のかたちを求めて、バイオミメティクスに行き着きました。そのきっかけになったのは、2011年の東日本大震災です。

そこで目の当たりにしたのは、自然と文明が衝突する圧倒的な光景でした。特に研究者の立場からすれば、自分たちが生み出してきた新しい技術が、自然と正面衝突した結果を見せつけられたわけです。有効なものもいくつかあったかもしれませんが、多くの技術はこの災害の前では無力でした。

一方、先端技術の研究をしていると、一般社会との関わりが希薄になりがちです。目の前で激甚災害が起こっていても、社会にアプローチする方法がわからない状況に歯がゆさを感じました。そういう経験から、もっと社会と関わるような研究者のあり方について考えました。そしてそれは、デザインという概念を中継することで可能になるのではないかと思い、現在に至ります。

マテリアルサイエンティスト・バイオミミクリデザイナーの亀井潤さん
マテリアルサイエンティスト・バイオミミクリデザイナーの亀井潤さん

今後さらに人と自然の境界線が変わっていくと思います。国連の気候変動政府間パネル IntergovernmentalPanel on Climate Change(IPCC)のシミュレーションによると、今後50年のあいだに平均気温は2℃ほど上昇すると言われています。

米環境NGO団体のClimate Centralによる海面上昇のシミュレーション
米環境NGO団体のClimate Centralによる海面上昇のシミュレーション
米環境NGO団体のClimate Centralによる海面上昇のシミュレーション

ロンドンやシンガポールなど、水辺が近い都市はこれくらい水没してしまいます。非現実的なSFの世界のように思うかもしれませんが、研究データと実際の都市の地勢に当てはめてみると、起こりうる未来はこのようなかたちで見えてきます。私の興味は、このような未来のなかで人間はどのように生きていけるのかということ。

現在、東北地方では巨大防潮堤の建設が進められています。しかし、このように自然と人間を分断してしまうしか共生の方法はないのだろうかと考えました。それでリサーチを進めていくと、おもしろい発見がありました。世界には水上で生活する部族や、1日の大半を海中で過ごす部族がいます。

Wikipedia (public domain) Photograph by Torben Venning
Wikipedia (public domain) Photograph by Torben Venning

彼らの常識は、陸で暮らす私たちとは真逆です。例えば、「家が波に揺られていないと不安で眠れない」「陸の上では落ち着かない」とか。つまり、私たちの常識は所詮「陸上生活者の常識」でしかないということなんですね。今後、海面が上昇してきて否応なく水とより近い生活を迫られると仮定すると、彼らの生活スタイルに有効なヒントが隠されているのではないかと考えました。

水中生活を何百年も続けてきた彼らは、体の一部が進化していて、通常の人間よりも長く水中に潜ることができます。また、他の生物種に目を向ければ、さまざまな方法で水陸両方に生活圏を持っている生物たちがいます。

マツモムシ Wikipedia (public domain) Photograph by E. van Herk
マツモムシ Wikipedia (public domain) Photograph by E. van Herk

彼らがなぜ水中で呼吸ができるかというと、体の表面に薄い空気の膜をつくり出すことができるからです。皮膚が水を強力に弾くので、空気を体表にまとうことができます。

MECHANISM

この膜を介して、水中でも体内に酸素を取り込むことができます。このメカニズムを人間にも応用できないかということで始まったのが、人工エラのプロジェクトです。

人間は他の生物と違ってたくさんの酸素を消費するので、さまざまな工夫が必要です。なかでも酸素の供給元である水との接触面積を最大化させる必要がある。魚のエラをはじめ、水棲生物の体の構造からインスピレーションを受けながら、この人工エラのデザインを作っていきました。もしこのプロダクトが実現すれば、半分水没した都市空間の中でも、陸上を散歩するような気軽さで生活する新しいライフスタイルが提案できます。

人工エラプロジェクト
人工エラプロジェクト

研究からビジネスへークリエイティブの種の育て方

もともとアンフィビオは、「温暖化が進んだ未来の環境で、自然と調和したライフスタイルを可能にする技術とはどのようなものか」というアイデアからスタートしています。しかしコンセプトだけに終わらせず、実際に機能する素材でプロトタイプも作っています。私が所属していたロイヤル・カレッジ・オブ・アートには「INNOVATION RCA」という機関があり、ここが卒業生の研究や起業を支援してくれています。

私の場合も、この機関から「コンセプトが面白いから、本格的に技術開発に取り組んでみてはどうか」と提案をもらい、起業することに。特許出願やラボの提供などさまざまな支援を受け、プロジェクトが研究からビジネスへと展開していっています。

INNOVATIONRCA

最近では、人工エラの素材を応用することで、アウトドアウェア用の高機能ファブリックを作ることに成功しました。これまでにないサステイナブルな生産が可能で、環境問題に対する具体的なソリューションにもなっています。

このように、それまでデザインフィクションでしかなかったプロジェクトを、現実の社会に実装していくのが私の活動です。テクノロジー、デザイン、ビジネスの領域を横断しながら、新しい未来を提案できればと常々考えています。

Amnhibio

タジリ:人工エラのプロジェクトは発想とテクノロジーがすでに魅力的で、普通ならそのまま研究に邁進していってもいい気がします。しかし下図のスライドでも示していたように、亀井さんはエンジニアとしてだけでなくデザイナーとして、人工エラに「デザイン」という要素を足していますよね。このプロジェクトにデザインが必要だと感じた理由について教えていただけますか?

デザイン

亀井:新しいテクノロジーが生まれたとしても、それが生活に取り入れられなければ、存在しないも同然になってしまいます。特にこのプロジェクトは「劇的な環境変化の後の“日常”」を見越しているだけに、テクノロジーの実用化だけでなく、どうすれば人々に受け入れてもらえるかも考える必要がありました。

そこで必要になるのが優れたデザインです。革新的な装置であり、普段着でもあるようなものができるといいなと。インスピレーションの元になった生物たちの合理的で美しい形状を活かすという意味でも、デザインの力は必要でした。

INOMATAそもそも「作れそう」と思ったこと自体がすごいなと思います。普通は、こういうものが作れるだろうとすら思えないですよね。

タジリ:たしかに。その最初の一歩を踏み出せるのが、アーティストや研究者のすごいところですよね。

株式会社アマナのM.C.BOO(右)と、「amanatoh」編集長のタジリケイスケ

亀井:私の場合は、昆虫やトカゲの生態を調べてきたので、その原理を模倣すれば水中での呼吸も可能だろうと考えました。

タジリ:ひとつのものとじっくり向き合っているからこそ、他人ができないような発想が湧いてくるわけですね。INOMATAさんも、3Dプリンタが世に出始めたころからずっと制作に活用されていますよね?

INOMATAそうですね、かれこれ10年以上の付き合いになります。

タジリ:3Dプリンタがあったから透明の貝殻が生まれたのか、貝殻を作ろうとしているなかで3Dプリンタを探し当てたのか、どちらでしたか?

INOMATA後者ですね。ヤドカリは、気に入ればペットボトルの蓋も貝殻代わりに使うくらい、自由な選択をします。しかし実際に代替物を与えてみたところ、選択する“条件”があることがわかってきました。論文も読みながら、貝殻のスパイラル形状や内部の平滑さが重要だということが、だんだんと理解できるように。でも、そういう貝殻を人間の手で彫刻するのは不可能に近いです。そこで可能性を提示してくれたのが3Dプリンタでした。

AKI INOMATAさん

ポストコロナ社会とアートの関係

タジリ:コロナ禍で活動に変化はありましたか?

INOMATA展覧会がキャンセルになったり、渡航制限で海外にいけずリモート設営したり、さまざまなことがありました。ただ、そのおかげで時間ができたので、ダイビングスクールに通い始めました。先ほどお見せした真珠の作品をつくる一環で、自分でプロセスを撮影できるようになりたくて。

タジリ:作品制作の方法が変わったアーティストは多かったでしょうね。

INOMATAアートの世界では、疫病が流行るときに傑作が生まれるとも言われています。やはり大きな変化が起きたり、自省する時間が長くなったりすると、それまでとは違った異色の作品が生まれてくるのかもしれません。

タジリ:亀井さんはいかがでしたか?

亀井:私はロンドンで2回のロックダウンを経験しました。そのとき改めて感じたのは、自然との関わりは人間の根源的欲求なんだなということでした。しかし他の生き物との触れ合いが不可欠である一方で、私たちの文明は彼らに危害を加えてもいる。そういう矛盾について改めて考えましたね。

亀井潤さん

新型コロナウイルスの蔓延も、元をただせば野生動物と人間の接触によるものです。人間が自然に必要以上に踏み込み、境界線が変化した結果が今回のコロナ禍だったのではないでしょうか。人間と自然のあるべき棲み分けのかたちを、もう一度考え直すタイミングなのかもしれません。

パンデミックに関してはまだ渦中にいて、抜け出し方が誰もわからないという状況ですよね。加えて、平常時には表面化しなかった社会課題がここにきて一気に噴出してきたことで、さらに状況が泥沼化している感もあります。

タジリ:そのようななかで、亀井さん自身はどのように活動していきたいと思われますか?

亀井:個人的には、現在の常識や制約にとらわれない活動をもっとしていくべきだなと考えています。そういう活動をどれだけしているかによって、環境変化に対する適応力や柔軟性が変わってくると思うんです。未来に対する仮説をいくつ持てるか、ものごとの見方をどこまで複数化できるかという観点は、変化のなかで困窮しないために大切になってくるのではないでしょうか。

M.C.BOOアーティストは社会にビジョンをもたらしてくれる存在だと思います。私はINOMATAさんや亀井さんの作品にとても魅力を感じますが、それはおふたりの作品が「未来」を見せてくれるからです。特に、昨今の先行き不透明な状況では、未来のかたちを想像させる力のあるおふたりの作品に一層関心が集まっていくのではないでしょうか。

M.C.BOOさん、AKI INOMATAさん、亀井潤さん

遠回りをすることで、初めて越えられる壁がある

タジリ:INOMATAさんと亀井さんのように、企業とコラボレーションするアーティストは少なくありません。必要な技術や資本の提供を受けて制作の幅を広げたり、発信力を高めたり、アーティストと企業の「共創」は今後の社会にとっても有益だと思います。ここからはおふたりの活動のなかから、企業とコラボレーションによって実現した事例をご紹介していただきます。

現美新幹線
出典:JR東日本のプレスリリースより

INOMATAこれは「現美新幹線」というJR東日本さんの企画です。新幹線の中が美術館になっているという斬新な試みで、2016年4月から2020年12月まで実際に運行していました。「世界最速の美術館」を謳っているのですが、これはやはりJR東日本さんのアセットなしには実現しない企画だなと思いましたね。

車体ラッピングには蜷川実花さんの写真が使われていて、各車両にはアーティストが一組ずつ展示しています。上越新幹線の越後湯沢駅~新潟駅間を運行していたので、各アーティストが地域にちなんだ作品を展示していました。私も燕市の国上寺五合庵を取材して、ヤドカリの作品のバリエーションを制作しました。

現美新幹線

タジリ:新幹線とは思えない空間ですね。

INOMATAそうなんですよ。本当に贅沢な美術館だと思います。鑑賞するだけでなく、車窓を眺めながら思索に耽る時間もあったりして。

タジリ:INOMATAさんは他にも、百貨店やファッションブランドとのコラボレーションもしていますよね。

INOMATAはい。美術館で展示するのとは違った条件で制作することになるので、新鮮な気持ちで取り組めますね。

ビーバーがかじった樹木を元にしたAKI INOMATAさんの作品《彫刻のつくりかた》の彫刻と写真をディスプレイした西武渋谷店のショーウィンドウ Photograph by Naoki Takehisa

タジリ:企業としても、自分たちのPRにアーティストの力を借りられることを有意義だと思っているのではないでしょうか。

INOMATA広告の世界では「次の時代を読む」ということが重要なのだと思いますが、それはもちろんアートの世界でも同じです。企業からのご依頼は「未来を考えるために協力し合いませんか」というオファーだと思っています。亀井さんにもそういうオファーはたくさん来ますか?

AKI INOMATAさん、亀井潤さん

亀井:私の場合は起業していることもあり、デザイナーの立場と企業の立場を行ったり来たりしているという感じですね。デザイナーやアーティストは「当たり前」を覆すアイデアや新しい物事を生み出す力を持っている人たちだと思います。

企業は、社会の未来を模索する段階で彼らの力を借りるといいでしょうね。ひとりのアーティストをパートナーとして招聘するのもいいですし、複数のアーティストやデザイナーを集めて発散的に可能性を求めていくのもいいでしょう。どちらにせよ、必ず新しい方法論やオルタナティブなビジョンが見えてくると思います。それはどんな企業にとっても有効なんじゃないでしょうか。

これは私の経験ですが、弊社では「人工エラ」のデザインコンセプトから始まって、新しい技術の開発につながり、現在は100パーセントリサイクル可能なアウトドアウェアを作っています。一見すると入口と出口が違うというか、遠回りしているように見えますよね。でも、それでいいんです。

コンセプト

私たちが開発した新しいテキスタイルは、アウトドアウェアを作ろうと思ったとき絶対選択肢に入らない技術を使っているんです。もちろん機能は他社製品に劣らないし、100パーセントリサイクル可能というアドバンテージもある。結果論ではありますが、人工エラをつくるという「遠回り」があったからこそ、独自のプロダクトを作ることができたんです。

ビジネスの現場では課題に対して直線的に解を求めようとするのが常ですが、遠回りするからこそ越えられる壁もあります。その“遠回りする力”を、アーティストやデザイナーに求めてもいい。どうしても効率的である方を善としてしまいがちですが、少しルートを変えてみると“僥倖=ビジネスチャンス”に恵まれることもある。

タジリ:サイエンスからデザイン、そしてビジネスへと領域を横断する亀井さんならではのご指摘だと思います。各領域から「見えること」はもちろん「見えないこと」も知っているからこそ、コラボレーションの重要性を実感されているわけですね。

M.C.BOO「遠回りすることで越えられる壁がある」という指摘は、きっと多くの方にとって刺さるものなんじゃないでしょうか。答えを出したいけど、答えの出し方がわからないというのが本音です。でもその悩みは、最速で答えにたどり着かなきゃいけないという暗黙のルールのせいで生まれてくるわけですよね。だからこそ、いま、「遠回り」というキーワードは重みを持つのだと思います。

M.C.BOOさん

INOMATAアートの立場から言えば、つねに「答えはひとつではない」ですからね。

タジリ:それも重要な考え方ですよね。

亀井:答えを出すことに注力するあまり、答えに向かっていく過程にはなかなか目を向けられません。しかし、その過程にはオルタナティブなルートにつながる「入口」がいくつも開けています。答えはひとつではない。ということは、いつだって自分たちは複数の答えに向かって開かれているということです。

とはいえ、いきなり過程に目を向けろと言われても難しいかもしれません。そういう場合は、広い視野と複数の視点で物事を見ている人と話すのがいいでしょう。その人はアーティストかもしれないし、デザイナーかもしれない。あるいは全ての職種にそのような人はきっといるでしょう。彼らの知見は、多くのインスピレーションをもたらしてくれるはずです。

タジリ:コロナ禍で「正解がない」いまだからこそ、他業種・他業態の方とコラボレーションして、全く別のことをやってみるということが思いがけない突破口になるかもしれませんね。先行きの不透明な時代の大きなヒントになったのではないでしょうか。INOMATAさん亀井さん、本日はありがとうございました。

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