日本のビジネスパーソンに必要なのは非論理的思考
仕事と人生をイコールで結ぶための新しい方法論(後半)

vol.3

AI時代を生き抜くアート的思考

日本のビジネスパーソンに必要なのは非論理的思考 仕事と人生をイコールで結ぶための新しい方法論(後半)

Photographs by Mami Arai
Text by Mitsuhiro Wakayama

SPEAKER スピーカー
  • 山口 周 (独立研究者/著作家/パブリックスピーカー)
  • 遠山正道 (株式会社スマイルズ 代表取締役社長)
  • 太田睦子 (『IMA』エディトリアルディレクター)

11月24日に開催された遠山正道さんと山口周さんによるトークイベント。後半は、ビジネスにおける「意味」の重要性や、自分の「美意識」を鍛える方法についておふたりが語ります。来場者から質問もあり、より具体的なお話が展開されました。以下、その模様をレポートします。

>>『日本のビジネスパーソンに必要なのは非論理的思考 仕事と人生をイコールで結ぶための新しい方法論(前半)』はこちら


意味欠乏症をわずらう日本

遠山正道(株式会社スマイルズ代表取締役社長/以下、遠山):お互い考えていることは、ほぼ同じですよね。

山口 周(コーン・フェリー・ヘイグループ シニア・クライアント・パートナー、文筆家/以下、山口):はい、そうですね。

遠山:「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」も、「なんでこうなっちゃうの?」という世の中への疑問や苛立ちから生まれました。やれることはたくさんあるので、そこを見て見ぬ振りするんじゃなくてどんどん解決させていけばいい。自分本位でいいんです。これがこうなったらいいのにと思ったら、「頼まれてもいない仕事」をつくって、やっていけばいい。

山口:世の中には「意味」が足りていないなと常々思っています。いまの日本には、なんでもある。なんでもあるけど、意味だけがない。「何のために」という問いに答えられないですよね。遠山さんはその点、「何のために」に答えられる「自分の答え」を持っている人ですよね。意味をつくるというのは個人にとっても大事ですが、意味をつくるということ自体がビジネスに今後なっていくと思っています。何か意味を持たせるということに経済的価値が生まれる時代が、もう来ているなという気がしています。

サラリーマンのユニークネスを引き出すネクタイブランド「giraffe(ジラフ)」に込めた思いを語る遠山正道さん
サラリーマンのユニークネスを引き出すネクタイブランド「giraffe(ジラフ)」に込めた思いを語る遠山正道さん

遠山:山口さんはそれを「美意識」とおっしゃっていますよね。私も社員に美意識ってずっと言っていたんですけど、最近ちょっとそれに弊害があることに気づいたんです。言われた社員にしてみたら「遠山さんにダサいって言われたらどうしよう」って思うわけじゃないですか(笑)。ハードルが高くなっちゃう。だから、ここ数年は言わないようにしています。言い方はどうでもいいと思うんですが、要は一人ひとりが何を感じてどう行動するか、それをどう促すかというのが大事だと。


変化を楽しむ、しかしとらわれない

質問者A:おふたりがビジネスのなかで、アート的な部分を重視されているのがよくわかりました。昨今はあらゆる仕事がAIの実装で様変わりすると言われていますよね。そういう時代だからこそ、特にハイライトしたい部分があれば教えていただきたいです。

遠山:私の場合はあまり時代の潮流を気にしていないんです。周りのことにとらわれず、自分ごとでやりたい。たとえば最近のAIの話にしても、あくまで周りの出来事だし、手段の話じゃないですか。だからそれをうまく利用できそうならすればいいし、無関心でも構わないだろうし、いろいろな態度があっていいと思います。とはいえ、シンギュラリティとかAIとか、すごく楽しみにはしているんですよ。配られたカードの1枚としては、魅力的でトキメキ感がありますね。

山口:われわれのようなコンサルタントという仕事も、AIに取って代わられると言われていますよね。いいことなんじゃないですかね。論理的に思考したりすることとは別のことにモチベーションを見いだしていくことが重要です。

コーン・フェリー・ヘイグループ シニア・クライアント・パートナー、文筆家の山口周さん
コーン・フェリー・ヘイグループ シニア・クライアント・パートナー、文筆家の山口周さん

「終わらせ方」を知っている企業だけが、次の時代に行ける

質問者B:私は多くの従業員がいて、比較的長く続いている企業に務めています。同僚には、「何か新しいことをやりたい」という若い人たちと、長く勤めて硬直化してきている人たちの両方がいます。お話を聴いていたら、先を見据えて打破していくことをやっていかないと会社として生き残れないだろうなと思いました。でも、革新に向かう若い社員と保守的だけど過去をよく知る人たちが同じベクトルを持って、共に歩んでいく方法はあるんでしょうか。

遠山:「Soup Stock Tokyo」の企画書を書いたとき、私はまだ若かったんですが、ジャッジする社長は年配の方でした。同じ景色を見てダメって言われるならいいけど、別の方向を向いたままダメと言われるのは嫌でした。それで企画書を事細かな「物語」にしたんです。

事前によく読んでおいてもらって、同じ言語で語れるようにした。物語なのでおじさんだろうが誰だろうが、楽しく読める。事業計画書なる数字で書かれたものは別冊ということにしてね。自分と違う考えや経験を持った人たちと、どうやったら一緒に会話ができるのかと考えることが必要なのかもしれません。

山口:心理学者のウィリアム・ブリッジズという人がいます。彼は人生における「トランジション(過渡期)」を研究した人です。これからは「人生100年時代」が大きなテーマになると言われています。100年も生きるとなると70年くらい現役で働かないといけない。でも70年間続く会社ってなかなかない。

だから10年単位で乗り換えていくこと、つまりトランジットが問題になってきます。ブリッジズは、みんなトランジットするときに「始め方」に注目してしまうと指摘しています。しかし彼いわく、それはまったく間違っていると。重要なのは「終わらせ方」で、トランジットできない人は「始め方」でつまずいているのではなく、「終わらせ方」に失敗しているのだと言うんですね。

これまで慣れ親しんだ世界は心地いいんですが、そこにはずっといられない。世の中が変化していってしまうから。だから遠山さんのおっしゃる通り、僕も対話した方がいいと思います。「新しい世界はどういうものになるのか」、「これまで親しんできた世界はなぜ終わるのか、本当に終わったのか」ということが整理できない限りは、たぶんどんなに魅力的な「未来のビジョン」が出されても無意味に終わってしまうかもしれませんね。 結局、「俺は前の方が好きだけどな」って言われて一蹴されちゃうでしょうから。新しい世界を見せるより、なぜいまの世界がダメなのかという「終わらせ方」の方が綺麗にまとまらないと、社員が同じ方向に進むのは難しいと思いますね。


自分の「美意識」を打ち立てる第一歩とは

質問者C:日常生活のなかで、具体的にどのようなことをすれば美意識は鍛えられるんでしょうか?

遠山:まずは「自分に素直になる」のがいちばんです。興味あることにしか興味を持たない。興味ないことには目もくれないという立場を取れるかどうかが大事。たとえばですが、シャンパンって本当においしいと思っていますか?そう思い込まされているだけではないですか?「それよりもレモンサワーの方がいいかな」とか、そういう自分なりの価値観をちゃんと持つことが大事だと思います。

私もたいてい好きなことやっていますが、そうすると不思議なことに周りから「あの人、美意識がある」って言われるんですよね(笑)。「センスがある」というのは「ジャッジができる」っていうことだとどこかで読んだことがあります。自分でジャッジができないから、ブランドとか流行とかに頼る。おそらく、そういうのを「センスがない」って言うんです。逆に自分の基準になる物差しを持っていることが「センスがある」、「美意識がある」ってことなんだと思います。

(左から)太田睦子、山口周さん、遠山正道さん

山口:自分が心地良いもの・悪いものに配慮していくだけでもいいと思うんです。「自信を持って」と言うと、「この作品は歴史的に高い評価を受けているのか」とか、「通は評価しているのか」みたいに、また判断が外部化してしまうので。そこはもう独善的でいいと思うんですよ。好きだとか、おいしいとかで。

世間的な良し悪しの基準に盲目的に従わないことです。ときには「それ、俺はわかんねえよ」と言う勇気もすごく大事だと思います。逆にみんなが「大したことない」と言っているものに対して、「俺は世界でこれがいちばんおいしいと思う」と言えるのもいいなと思います。ですから、自分で「感じること」と「表明すること」のふたつが大事なことだと思います。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり言うことが、まずはいい訓練になるんじゃないかと。

太田睦子(『IMA』エディトリアルディレクター):まだまだお聴きしたいことはたくさんあるんですが、お時間がきてしまいました。おふたりとも、本日はどうもありがとうございました。

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