“驚きに満ちた体験”を提供する レクサスのブランディング

vol.34

売り込まずしてモノを売る、

ラグジュアリーブランドの設計図

Photographs by Honami Kawai

Text by Masahiro Yoshikawa

高級、スマート、革新的……。高級車として知られるレクサスには、そんなイメージがあるのではないでしょうか? しかし、2005年に日本に導入された際、レクサスのブランドイメージはいまほど根付いたものではありませんでした。そんなレクサスを、どのようにして現在の「ラグジュアリーブランド」としての地位まで押し上げたのか。ブランディング戦略の裏側を、元レクサスインターナショナル・ブランドマネジメント部部長、高田敦史さんに語っていただきます。現代のブランド構築の設計方法や、今後ラグジュアリーブランドがどうなっていくかなど、具体例を多数交えながらレポートします。


「ブランド」とは何か?

タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):今日はお越しいただきましてありがとうございます。本日は、レクサスのマーケティングを担当し、現在A.T.マーケティングソリューション代表を務められている、高田敦史さんにラグジュアリーブランドにおけるブランディングとマーケティングについてお伺いしていきます。

高田敦史(A.T.マーケティングソリューション代表/以下、高田):どうも皆さんこんにちは、高田です。私は1985年にトヨタ自動車に入り、主に宣伝や広告の仕事をしました。1992年からはマーケティングサイドから商品の企画をする商品企画部、2010年にトヨタマーケティングジャパンをつくりました。2012年にトヨタから「レクサス」というラグジュアリープレミアムのブランドができたときに、組織も別にしようということで、レクサスインターナショナルを立ち上げ、ブランドマネジメント部で4年間部長として仕事をしました。そして現在はA.T.マーケティングソリューションという会社を立ち上げ、マーケティングのお手伝いをしています。

A.T.マーケティングソリューション代表の高田敦史さん(右)と、「H」編集長のタジリケイスケ
A.T.マーケティングソリューション代表の高田敦史さん(右)と、「H」編集長のタジリケイスケ

タジリ:まず、基本的な質問になりますが「ブランド」とはどういったものでしょうか。

高田:「ブランド」という言葉の由来は所説ありますが、他人の家畜との区別をつけるために牛や馬に焼き印をつけた「Burned」から来ていると言われています。そこから派生して、競合他社と識別する名称やシンボルを「ブランド」と呼ぶようになったのです。

ブランドとはなにか

高田:ブランドが付いていると品質が保証されます。具体的には、ふたつの価値があって、ひとつ目はたくさん売れること。ふたつ目は高く売れること。例えば原価50万円の時計があったとしたら、ブランドの冠が付くことで職人の技術力や品質の高さなどを保証することになるので、付加価値がついて数百万円、数千万円の価格で売れるわけです。

ブランドとはなにか

高田:自動車業界で、このふたつのタイプのブランドをバランスよく持っているメーカーのひとつがフォルクスワーゲングループです。

そのなかのフォルクスワーゲンはたくさん売れる大衆車で、グループ全体の販売台数の過半を占めていますが、利益に貢献しているのはプレミアムブランドのアウディやスポーツカーブランドのポルシェなのです。そして、これらの高級ブランドで利益を出せる理由は価格設定が高いことはもちろんですが、たくさん売れるワーゲンの部品を使うことでコスト低減ができていることも一因となってます。

ブランドをつくるとそうしたことが起きます。レクサスも同じです。レクサスはトヨタ全体の7〜8パーセントの販売台数ですが、利益での貢献度はそれ以上です。それはトヨタがたくさんのクルマを売っているからです。

企業ブランドには、高品質、耐久性、信頼性などがあり、これがトヨタにあてはまります。例えば「カローラ」というクルマがあって、「他のクルマと比べたらカローラのほうが良いんじゃないか」「トヨタにしておけば間違いないんじゃないか」という判断で買う人が多いということです。

一方で「プリウス」は1997年にマーケットに入ったのですが、当時は電気とガソリンを使って動くハイブリット車は他にありませんでした。世界で初めてのクルマでも「まあトヨタだったら大丈夫だろう」というトヨタブランドのおかげで売れた部分も大きいのです。

高田敦史さんとタジリケイスケ

高田:メルセデス・ベンツは高級車の代名詞です。だから、みんな「ベンツが欲しい」と言いますね。一方で商品にはカローラやプリウスと違ってAやC、GLAといった記号的な名前を付けています。他の高級車も同じ傾向がありますが、これは個々の商品よりも、コーポレートのブランド力で売っていこうということです。

こんなエピソードがあります。とある寿司屋の大将に「レクサスを買いました」と言われたときに「何を買ったんですか?」と聞くと、その方は「知らない」と(笑)。これはすごいと思うんですよね。車種ではなく「レクサスを買った」と言うことは、次のこの車種の新型が気に入らなくても他のレクサス車を買ってくれる可能性が高いんです。やはり、高級品はコーポレートブランドが大事だということです。これを分かっていないとブランド構築ができません。レクサスのブランディングもこの考え方で行われています。

価格以上の価値を提供する「ブランド」の力

高田:次はレクサスのことを少し詳しく紹介したいと思います。レクサスは1989年に日本よりも先にアメリカに導入されました。実はレクサスの売上台数の半分以上をアメリカが占めています。日本での販売は5万台くらい。全体が70万台ぐらいですから1割以下ですね。

タジリ:日本でそんなに売れていないというのは意外ですね。

高田:確かに日本のブランドなのですが、売れているのはアメリカなんです。われわれがブランドを考える上でもアメリカは中心的存在でした。

高田敦史さん

高田:なぜこんなにアメリカで成功したかと言うと、1989年にデビューした「LS」というクルマがすごかった。専用の工場や専門家チームを立ち上げて、「クラウン」とは全く別次元のクルマをつくり、市場にものすごいインパクトを与えたんです。

品質と信頼性が非常に高く、さらに低振動のエンジンを持つクルマを、品質に対しては安価な価格で提供しました。これを私たちは「スマートプライス」と名付けました。走行性能が高い欧州のクルマには勝てない。だからレクサスは、徹底的に静粛性、快適性、低振動性にこだわったのです。このクオリティのクルマをこの価格で出せるのはおかしい、「ダンピングだ」と揶揄されるほどでした。

トヨタは初めてこのとき、ブランドの偉大さに気が付いたんです。なぜなら、トヨタとしてはその価格設定でも原価に対して高いと思っていたからです。こんなに高く売ってもブランドが確立して品質と信頼が担保されていれば、ダンピングだと言われるぐらい利幅も大きくなる。それはトヨタの知らない世界だったんだと思います。

顧客が顧客を呼ぶ「カスタマーズ・テル・ストーリー」

高田:従来のディーラーのイメージも刷新しました。これまでディーラーというと一方的にクルマを売りこむイメージでしたが、レクサスでは朝食ビュッフェを出してみたり、ゴルフの練習ができるパッドを置いてみたり、それこそ納車式でお客様を送り出してみたり。ある意味、自動車の販売店の常識を超えたディーラーづくりをやりました。

そのお陰で、ビル・ゲイツさんやスティーブン・スピルバーグさん、マーク・ザッカーバーグさんなどが「これからの時代のクルマだ」と買ってくれました。それが世間に新しい時代の後継者であるというイメージを与え、一気に浸透していきました。レクサスの評判がお客さまから市場に伝わることを「カスタマーズ・テル・ストーリー」と呼び、お客さまがお客さまを呼んでくれると考えて上級のサービスを提供できるよう徹底していきました。

カスタマーズ・テル・ストーリー

高田:これらの戦略については、米国トヨタの貢献が大きかったのです。商品の供給や商品の企画は日本でしたが、マーケティングは米国主導でした。ふつうはブランドの定義やルールを先に決めてから販売戦略を考えていくのですが、レクサスは米国トヨタの販売会社が考え出した成功モデルを、ヨーロッパやアジアへ横展開していったんです。

品質とホスピタリティ獲得のための徹底した教育とサービス

高田:レクサスは2005年に、いよいよ日本に導入されました。なぜ2005年まで遅れたかと言うと、日本では、グローバルで「レクサス」として売っているクルマを、トヨタが「セルシオ」として売っていたからです。しかし、このころにベンツやBMW、アウディがすごく販売を伸ばしてきた。これに対抗していくには、レクサスしかないということで、日本に入ってきたのです。だから他社に対抗するために、ものすごい勢いでいままでだったらできないようなことをやったのです。

例えば、ディーラーの店舗デザインを全て統一し、オーナー専用ラウンジもつくりました。さらに日本の場合は、トヨタのクルマを売っている人と同じ人がレクサスを売ってはダメだということで、「レクサスカレッジ」という学校を富士スピードウェイの敷地内つくってレクサスの販売スタッフ全員に特別な教育を施しました。トヨタのように販売台数をどんどん増やしていく売り方ではなく、レクサスでは一人ひとりのお客さまと知り合っていくのが大事なんだと。

日本レクサスの誕生

高田:もうひとつ力を入れたのは、CS(カスタマー・サティスファクション)です。レクサスの日本導入を決めたときは、残念ながらラインナップはそんなに揃っていないという状況でした。だからCSを上げることを徹底しようと考えたのです。

その結果として、レクサスは独自のブランドイメージを確立することに成功しました。

具体的に言いますと、ステイタスのメルセデス・ベンツ、走りのBMWに対して、レクサスは品質とホスピタリティ、特に販売店のサービスが優れているというスコアがダントツに高い評価をいただくようになり、独自のポジションを確立できました。

高田敦史さんとタジリケイスケ

ブランディングの原点から生まれた、レクサスの新戦略プロジェクト

高田:レクサスはラグジュアリーブランドとしてのポジションを築いていきましたが、2000年代の中盤くらいから米国でのユーザーの平均年齢が上がり、ブランドイメージも少しずつ陳腐化が進み始めました。また、2005年に導入した日本でも欧州高級ブランドからの吸引が予定ほどは進んでいませんでした。これらの課題を解決するために、レクサスのブランディングの方向を少し修正しようということになったのです。

高田敦史さん

高田:そのために、従来社内に点在していたレクサス関係の部署をまとめて、レクサスインターナショナルという新組織を立ち上げ、そのなかでブランドの管理とコミュニケーションを担当するレクサスブランドマネジメント部の部長に私が就任したのです。

そのブランディング戦略の一環として、レクサスも2014年ころからスポーツカーの導入に踏み切りました。ラグジュアリーカーにスポーツカーがないのはあり得ないことです。まず、「RC」というモデルをつくり、RCをベースにした「RCF」を出しました。2017年にはレクサスのフラグシップ・クーペと位置付ける「LC」が出ました。

クルマを開発するには何百億円もかかります。スポーツカーはお金を回収するのがすごく大変で、一般的に商売だけを考えるとリスクが高いですが、ベンツもBMW、アウディもしっかりスポーツカーを出しています。彼らが分かっているのは、売れるモデルだけをつくってもブランドができないこと。だからレクサスも、すごく苦労して洗練されたものを生み出したのです。形が良くても、そこにエンジンを入れなければいけない。だから、設計から全部やり直しました。また、「LC」専用の真っ白な壁に統一された工場も愛知県の豊田市につくりました(参考:QUALITY OF LEXUS)。私も工場見学をして、全く別次元のクルマだと思いましたね。

これまでのイメージを刷新した広告クリエイティブ

高田:次はどんなふうにレクサスの宣伝やクリエイティブをやってきたかの紹介です。まずはこちらの動画を見てください。

高田:これはレクサス史上初めて、世界共通のブランド広告を打ったものです。グローバルブランドキャンペーン「AMAZING IN MOTION」の第1弾の広告で、従来のレクサスにはやや欠けていた「驚き」を提供するというコンセプトで制作されました。危険じゃない場所以外の人型には本物の人間が入ってポージングしています。つながって走っているように見えなければいけないので無理な体勢も多く、痛いとか姿勢がきついとかなかの人には言われました(笑)。

次の映像も「AMAZING IN MOTION」シーリズのひとつとしてレクサスが挑戦した、空飛ぶホバーボードです。映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界のような、未来を想定した景色の映像です。

ドイツにホバーボードを浮かす技術があるということで交渉に行ってもらったのですが、なかなかボードが浮かなかったんです(笑)。完成までにはかなりのお金と日程を費やして大変でしたが、できた映像はすごい回数が再生されたので、覚えている方が多いのではないでしょうか。

高田:次の映像はレクサスの足回りを見せた映像です。とにかくレクサスを変えようとずっと議論して、このような動画をつくりました。

高田:最後は「一夜限りのレストラン」と言うコンセプトで行った、「DINING OUT with LEXUS」という野外レストランです(参考:「地方活性のビジネスチャンスは「閉じた世界」にあり」)。日本のどこかに数日間だけ突如現れる野外レストラン。レクサスも「DINING OUT」のクリエイティブなチャレンジに共感し、参加させていただきました。

高田:これらのムービーにはほぼレクサスのクルマが写っていません。文句を言われましたが、それを理解してもらうためにずいぶんいろいろなところと調整をしました。レクサスが提供する世界観がある種のラグジュアリーだと、みんなの心に訴える。そんな活動をたくさんしていきたいと伝えたかったんです。

高田敦史さんとタジリケイスケ

高田:レクサスは広告でも単にクルマだけを見せるのではなくて、ブランドを使っておもしろいことやっているということを打ち出しています。レクサスのグローバル広告には、“Experience Amazing. It’s imagination that transforms ordinary, into extraordinary.” と書いてあります。「高級ブランドはテクノロジーだけではなく、イマジネーションや驚きを生む」と。その志を持って、レクサスはこれからも時代を先取りしたチャレンジをしていくというメッセージを広告を通して表現したんです。

タレントを使った広告だけでブランディングはできません。ラグジュアリーラインでも、これからはたくさんの人に知っていてもらうことがすごく大事だと思います。例えば、途上国の新聞広告でもレクサスのマス広告を打ちます。「1カ月に10台くらいしか売れないような、お金持ちしか買わない高級車になぜ広告を打つのですか?」と言われますが、「レクサスでホテルに行ったときに、誰も知らなかったらドアマンが寄ってこないでしょう」というのがその答えです。所有者の数は圧倒的に少ないですが、より広範的に知ってもらって、クルマを憧れの目で見てもらうためにブランディングが大事だということです。 

洗練されたイメージをつくるブランディング戦略

高田:その施策のひとつとしてレクサスは、2013年の8月にレストランやライフスタイルアイテムのショップなどを備えた「INTERSECT BY LEXUS」を青山に開きました。 “都市とつながり、人と人、人とクルマが交わる”というコンセプトのもと、レクサスが考えるライフスタイルを体験できる、ブランド活動の発信拠点をつくろうと思ったためです。

皆さん「なんでレクサスがこんなことやるの?」と思ったはずですね。それは、「レクサスはすごいけど、つまらないブランドだよね」「都内で年配のお金持ちが乗っているようなクルマだよね」といったイメージを変えたいという思いがありました。

INTERSECT BY LEXUS

高田:また、「未来を担う新進気鋭のクリエイターの支援」する目的で行っていた「LEXUS SHORT FILMS」では、世界中から選ばれたクリエイターと一緒にショートフィルムを制作しました。レクサス車も登場していますが、それだけを見せるようなものにはしていません。

ハリウッドのスタッフをつけて、若手監督にすごくクオリティが高いところを目指してもらいました。その後、長編映画を撮るようになった方もいます。

LEXUS SHORT FILMS

高田:同じ文脈で、世界の若手デザイナーをサポートしようと、「LEXUS DESING AWARD」をつくりました。毎年1200作品以上の応募から入賞者を選び、ミラノサローネに招待、展示をします。アート業界で世界的に活躍するメンターもつけて、作品を一緒につくっていく。そこから実際に世界に商品として売り出したものも出始めています。

LEXUS DESING AWARD

高田:これはレクサスのオウンドメディア「VISIONARY」です。ここにもレクサスのクルマはほとんど出ていません。独自の切り口でライフスタイルの「価値あるオンリーワンの情報」をお届けすることで、レクサスのキュレーションに基づいて選んだモノ・コトを取材して発信しています。

ブランドづくりには認知度や知覚認知が大きく関わっていて、ブランド名を聞いて多くのことを連想してもらうことが理想です。そのため、こうした発信源をたくさん持っていることで、レクサスの世界観を広げていくことがとても重要なのです。

VISIONARY
「VISIONARY」より

高田:それぞれのプロジェクトごとに対象とするターゲットや提供する価値を戦略的に変えました。レクサスはCSを大事にしていますが、必ずしも既存のお客さまだけのためのサービスをやるわけではありません。ディーラーがCSをしっかりやってくれる代わりに、新規のお客さまを持ってくるのが私たちの仕事です。レクサスをまだお持ちでない方や、お客さまの息子さん・娘さんが「レクサスって格好良いよね」と言ってもらえるイメージづくりがすごく大事です。

レクサスの認知度を飛躍させた“驚きに満ちた体験”

タジリ:こうした活動が、実際のクルマの販売台数に結び付いているのかは、なかなか数字としては分かりにくいと思います。施策に対する効果を数値として求められるのが一般的な流れですが、社内的な調整はどうやられたのでしょうか。

高田:こうした活動で本当に数字が取れるかの証明は難しいです。ただし、例えば「レクサスがクールだ」という印象値が増えれば、他社とレクサスを比較している人が買ってくれるかもしれない、などといったシミュレーションはできます。

それによってレクサスの台数がこれぐらい増えていくだろうと。するとこのぐらいの投資が回収できそうだというストーリーが描けないわけではないのです。担当者間で議論を重ね、数字で見える化し、数年先までのストーリーを描いて社内に説明していきました。ただし、私が幸運だったのは直属の上司の方々のレクサスを変えることへの熱意が高く、大変にサポーティブであったことです。

高田敦史さんとタジリケイスケ

タジリ:そうした熱意こそが、企画を実現させる力になっていたということですね。

高田:良かったのは、トヨタ全体の台数に比べるとレクサスは少数派だったということです。一方で利益貢献はできていたので、マーケティングに積極的な投資をしようという流れができました。

だから、みんながびっくりするようなことにどんどん挑戦させてもらいました。大企業ではどうしても安全を取るという考え方が強くなりがちですが、お客さまに振り向いてもらえなければ意味がありません。「なんでレクサスがこんなことをやるんだ?」と思われるような、“驚きに満ちた体験”を提供する。品の良いおふざけの世界ですね。そのひとつとして、トリックアートを使ったレクサスの立体広告をつくったりもしました。クルマが看板から飛び出ているように見えます。

トリックアート看板

高田:それから、 “新しい上質”を紹介するレクサスのテレビ番組「上質の地図‐GRAND ATLAS‐」によるスペシャルプロジェクトとして、東京タワーの展望台に「天空の湯会」と銘打ったお風呂の展示をしました。視聴者のなかから1組だけ東京タワーに宿泊できるキャンペーンも行い、撮影後は「ありがとうございました。あとはゆっくりお泊まりください」とおふたりで過ごしていただきました。まさにクレイジーですよね(笑)。

「上質の地図‐GRAND ATLAS‐」によるスペシャルプロジェクト「天空の湯会」

タジリ:こうした企画がなければ、ここまでレクサスの認知度は上がっていなかったと思います。

高田:もしやらなかったら、どうなっていたかは分かりませんが、それなりにお金を使わせていただいたので、効果測定をしていました。「レクサスは格好良い」という文脈でネットに出てくる言葉数が、ブランドキャンペーン「AMAZING IN MOTION」が始まった2013年の4月を100とすると、翌年の8月には4倍の評価に上がりました。これにはやっていた自分たちも驚きました。

これだけ矢継早にたくさんのことをやるとネガティブな反応も気になります。特にレクサスの強みである品質やホスピタリティの評価が落ちていないかは確認しながらやっていました。結果としてはブランドイメージを損ねることもなく、日本とアメリカの両方で好感度を上げることに成功しました。

これらの結果は、私たちの自社調査だけでなく大学の研究者や富裕層ビジネスの会社の方々からも「最近レクサスの評価が大きく上がった」との高評価を受けました。

今後の富裕層マーケティングとラグジュアリーの民主化

タジリ:最後になりますが、高田さんが今後のマーケティングをどう考えているのかをおきかせください。

高田:カルティエが高級コンビニを出店したり、エルメスが銀座にゲームセンターをつくったりと、ラグジュアリーというものがどんどん変化をしています。

元来ラグジュアリーは、ルイ・ヴィトンやエルメスが19世紀に限られた人たちのためだけにつくったのが始まりでした。しかし1990年ぐらいから、ラグジュアリーブランドがどんどん拡大していって、ルイ・ヴィトンなんかはまさに巨大ビジネスとなりました。

マーケティングジャーナル
出典:マーケティングジャーナル

高田:これはラグジュアリーブランドの特徴を論文で書いたものです。ブランド側から見たときに、高品質、歴史・伝統、文化、高価格というのは昔から変わりません。一方で顧客側は、富の象徴としての社会的な価値だったり、審美的・美術的な価値、財産的な価値を持っています。

もともとラグジュアリーブランドの特徴であった「限定的な生産」、「限定的な流通」、「限定的な広告」というのは、「実質的な希少性」を表していました。一方でいまのラグジュアリーは実質的な希少性ではなくて、「認知された希少性」に変わるよう、マーケティングを行っています。大量生産しているにもかかわらずたくさんあるようには見せない。買い手に「もっとつくってほしい」という渇望感を与えることが大事なんですね。非常に高度でテクニカルなマーケティング手法を行っています。

高田敦史さんとタジリケイスケ

また、最近のラグジュアリーはストリートにまで領域を広げています。ラッパーのカニエ・ウェストが、ラグジュアリーとストリート・カルチャーを融合させているのを見ても、顧客層はどんどん変わってきています。いまはラグジュアリーそのものの定義すら急激に変化していく過渡期だと言えます。恐竜が鳥になった時期がいまで、そう考えると私たちは始祖鳥みたいなものですよね。今後のラグジュアリーがどう変わっていくのか非常に興味がありますね。

タジリ:高田さん、本日は本当にありがとうございました。

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